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失踪6

 樹くんは僕を探すだろうか。付き合い始めた頃、樹くんは言っていた。いなくなったら僕を探す、と。でも、今はどうだろう。結婚して三年経っても妊娠もしない妻。もう用はない、と探しもしないだろうか。如月に自分の居場所はないと思い家を出てきたのに、探して欲しいと思う自分も少しいる。  甘ったれていると思う。樹くんと付き合う前は一人でもなんとも思わなかった。人見知りが激しくて、友達は数少なかった。だから一人で学食で食事をすることはあったけれど、特に何を思うもなく、普通に食事をしていた。休日は家で一人でいることも多かったけれど、寂しいと思うこともなかった。だって、僕は子供の頃から一人だったから。  加賀美の家で、母と二人暮らしだったけれど、出来損ないのベータの僕のことを毛嫌いしていた母と仲がいいわけもなく、当然一人だった。  僕の人生は、樹くんと出会うまでは一人ぼっちだったのだ。それが僕だった。でも、樹くんと出会って、一緒にいるようになって結婚して、一人で過ごす時間なんてすっかり忘れてしまった。人のぬくもりを、人の愛情を知ってしまった。人は、愛情を知ると強くなると思っていたけれど、弱くもなるのかもしれない。  ただ、万が一、樹くんが僕を探すとしたら、携帯と会社はチェックすると思う。加賀美の家はチェックしないだろうか。とすると携帯は夜は切るようにしよう。会社は休んでいるから、もし会社に行かれたとしても大丈夫だ。ただ、いつまでも会社を休むわけにはいかないから、辞めるようになるんだろうか。オメガ枠のある貴重な会社だったけれど仕方がない。またオメガ枠で探すしかない。そのときはここから離れたところでもいいのかもしれない。  とりあえず、今日から泊まるところを探さないと。そう思いスマートフォンをカバンから出して宿泊予約サイトを表示させる前に、待受にしている樹くんの顔を見た。  これは二人で温泉に行ったときの写真だ。樹くんがすごく楽しそうで思わず撮ったんだ。その写真を見て、涙が出てきた。好きなんだ。こうなっても、好きなんだ。いや、好きだから家を出たんだ。でも、好きなのに別れなくちゃいけないのはすごく辛いことだな、と思う。  樹くんと付き合い始めたころは、いつでも身を引けるように心づもりをしていたのに。時間がたつにつれ、オメガになったからずっと一緒にいられるって思って、別れるなんて考えもしなくなってた。本当に最近の僕は甘ったれてた。結局それは樹くんが好きだからだ。別れを考えなくなったのは、樹くんが好きだから。だから、今、こうして写真を見るだけで涙が出てしまうんだ。

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