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帰宅2

「樹くん……」  なんで樹くんがここにいるの? 仕事、忙しいからこんなところで僕を待っている時間ないでしょう。なんで? 探したの? 妊娠もしないオメガなんて必要ないでしょう。でも、樹くんは僕の腕を掴んで離さない。 「優斗。帰るよ」  樹くんはそう言うと、空車のタクシーをつかまえ、僕をタクシーに押し込んでくる。いや、ちょっと待って。僕が帰るのはホテルだ。   「樹くん!」 「話は家に帰ってからだ」  話すことなんてなにもない。僕が三年経っても妊娠しないのなんて樹くんが知っているじゃないか。そう言いたいけれど、真剣な樹くんの表情はとても硬くて何も言えなくなる。  タクシーの中で逃げようもないのに、樹くんは僕の腕を離してはくれない。家で話をして、納得して貰ってからホテルに帰るしかなさそうだ。明日も仕事だけど、大丈夫かな。  会話はひとつもないままマンションに着き、やはり無言で僕の腕を掴んだまま歩く。もう、ここまで来たら逃げないけど、樹くんは離そうとしない。  最上階の部屋まで着き、ドアを閉めるなり、樹くんは僕を強く抱きしめた。樹くんの体は小さく震えていて、泣いているのだろう。 「優斗。黙っていなくならないで。お願いだから俺のそばにいてよ」  そう懇願するように声を振り絞った言葉に、僕は何も言えなくなる。 「言っただろ。俺は優斗を手放せないって。俺の前からいなくならないでって」 「でも……」 「でも、も何もない。なんで俺のそばからいなくなるの? どうしたらいなくならない?」 「樹くん……」 「妊娠しないから、って言うんだろう」  樹くん、気がついていたんだ。なら! なんで僕を迎えになんてきたの。しかも忙しい樹くんがあんな早い時間に。気づいていたなら放っておいて、離婚届だけ出してくれれば良かったのに。なのに、なんで迎えになんてきたの。話なんてすることないのに。 「多分、この間、父さんが無神経な発言したからだろうけど。子供なんてできようができまいが関係ないんだよ。優斗がいればいいんだ。何もいらないんだよ。優斗さえいればいいんだ。どうしてそれがわからない? 俺、付き合い始めた頃言ったよね? オメガにならなくても俺のそばにいて。俺は優斗のこと手放せない、って。あの頃はベータで、優斗はそれを気にしてて。でも、俺には優斗の性別なんてどうだって良かったんだよ。ただ、優斗がいてくれればそれで良かった。今はオメガになったけれど、同じなんだよ。妊娠しようと関係ないんだよ。父さんとかは孫ができたら喜ぶだろうけど、そこに優斗がいなければ意味はないんだ。だから、そんなことで離婚届なんて置いていなくなるなよ。何よりも優斗が大切なんだよ。なんでそれがわからない?」 「樹くん……」

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