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帰宅4

「子供を産めないなんてオメガとして失格でしょう。父にも役立たずのオメガって言われて……」 「お父さんに?」 「うん。子供を産めないなんて離婚を言い渡されたらどうするんだ、ってすごい怒られた」 「お父さんなら言いそうだな」  樹くんは小さく笑った。きっと、どんな顔をして言ったか想像がつくんだろうな。それに、父がオメガは子供を産むべき、って思っているって知ってるから。 「お父さんにまた罵られたのなら、嫌な思いをしたよね。でも、それはお父さんだけの価値観であって、如月では一切問題がないんだよ」 「でも、僕は加賀美の人間だから」 「優斗はもう如月の人間だよ。それに、俺も父さんも加賀美とか関係なく、優斗と結婚してるから、加賀美のオメガだなんて気にしたことない」 「樹くん」 「だから、気にする必要ないんだよ。もう加賀美の家に囚われるな」  加賀美の人間だと。加賀美のオメガだと気にしなくてもいいの? もう父の言うことに囚われなくてもいいの? 「優斗を役立たず、出来損ない、なんて言う人間は如月にはいないよ。母さんも言ってたけど、子供は神様からのプレゼントだから。もう、加賀美の家から自由になろう」 「樹くん……」  そう言われて僕は涙が出てしまった。僕は父の言葉に振り回されなくていいの? もう、加賀美から自由になってもいいの?  「自由になっても、いいの?」 「いいんだよ。もともと、オメガは子供を産むマシーンじゃない。その発想がおかしいんだよ」 「そっか……」 「そう。だから、優斗はどこにいたいか、だけ考えて。もう俺のそばにはいたくない?」 「そんなことない!」 「じゃあ、俺のそばにいてよ。帰ってきて……」  懇願するような樹くんの声が辛い。僕は、帰ってきていいんだろうか? 樹くんのそばにいていいんだろうか? 「帰ってきていいの?」 「もちろん! 帰ってきて」 「……うん」 「ほんと? 帰ってきてくれる?」 「樹くんのそばにいてもいいのなら、そばにいさせて」 「いいに決まってる! もう、黙っていなくならないで。約束して」 「うん。約束する。樹くんのそばにいたい」  僕がそう言うと、樹くんは僕を抱きしめる腕を強くして、耳元で囁かれた。愛してるよ、と。だから僕も返した。 「僕も愛してるよ」  と。

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