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神様からのプレゼント2
「おめでとうございます。妊娠七週目ですね」
樹くんと行ったバース婦人科で妊娠を告げられた。え? ほんとなの? ほんとに赤ちゃんがいるの? 僕は自分のぺたんこなお腹を見た。
「赤ちゃんの心拍が聞こえていますよ」
ほんとに赤ちゃんがいるんだ……。僕は嬉しくて泣いてしまった。五年間全然妊娠しなくて。もう無理だと思ってた。確かに検査では、僕にも樹くんにも問題がないのはわかっていた。でも、もう諦めてしまっていた。だけど、妊娠したんだ。これで、樹くんとお義父さん、お義母さんは喜ぶだろうな。
と思っていると、先生の側からすすり泣く声が聞こえる。多分、いや間違いなく樹くんだ。
カーテンが開くとやはり樹くんが泣いていた。僕の顔を見てもなにも言わない。いや、言えないんだろう。
でも、その状態で樹くんが喜んでいるのがわかった。
病院から家に帰ると、樹くんはお義父さんに電話した後、お義母さんにも電話で報告していた。それを見て僕は、加賀美の父に連絡をすべきかを考えていた。
最近は、もう僕のことは息子とも思っていないのか、縁が切れているかのような状態だ。もう出来損ないとして見限っているんだろう。そんな父に連絡は必要なんだろうか。
連絡する必要はないんじゃないか、と思う反面、あんな人でも一応実父であることに変わりはないのだから、という気持ちもある。
「樹くん、どうしよう」
「気持ちとしてはしなくていいよ、と言いたいけど、一応耳に入れておいた方がいいんじゃないかな? 後で、どこかから聞いたら気分悪いだろうから」
「そっか。そうだよね。連絡してみる」
平日の昼間。電話が通じるとは思わなかったけれど、数回のコールで父は出た。
「優斗です。ご無沙汰しています。今日、妊娠していることがわかったので、そのごほうこ……」
「妊娠したのか!」
僕が言い切る前に、父は被せ気味に言葉を発した。
「はい」
「離婚を言い渡されずにいたが、これで安心だな。いいか、間違えてもお前のようなベータは産むなよ。アルファを産んで跡継ぎにしろ。いいな。ベータなんて産むなよ」
と、一方的に言うと電話は切れた。
「……」
「お義父さんらしいね。せっかく妊娠したのに性別まで言ってくるとは。まだ性差別するんだな」
「仕方ないよ」
この二年間、音信不通のようになっていたけれど、父は変わっていなかった。やっぱりベータは出来損ない扱いなんだな、と思う。これでベータの子供を産んだら、完全に僕は出来損ないと父に認定されるわけだ。そう思うと怖い反面、もうどうでもいい気もしてきた。
「性別なんて関係ないからな。アルファでもオメガでもベータでも、産まれてきてくれるだけでいいんだよ。だろ?」
「うん」
「お義父さんには、とりあえず知らせるっていうだけでいいよ。それで何を言われても関係ない。それを忘れないで」
「うん」
そうだ。もう加賀美に囚われないって決めたんだから。だから、父になんて言われても気にしない。
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