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第5話

人があまり周りにいない席について 1人で食事をしていると 隣に人懐っこそうな青年が座った。 「ねぇ!君、新人だよね? いくつくらい?僕と同じくらいかな?」 「え、あ、はい。今日からです。 歳は17.歳です」 「17!?もっと下かと思った。 僕と同い年だよ! 名前はなんていうの?」 「い…、まだ付けてもらってなくて…」 危うく捨てたはずの名前を言いそうになった。 別に言ってもいいけども 付け直してもらうなら、それを名乗りたい。 「あ、そっか。まだ主さまに お会いしてないんだね」 「はい。怖い人ですか?」 「うーん…、確かにオーラはあるけど 怒られたり、殴られたりしたことはないよ。 それと、主様にはご両親がいて お父さんが社長なんだけどね 外国に拠点を移したから 日本では主様が社長なんだよ!」 「そ、そうなんですね…。 あ!僕、もう行かないと」 興味深い話だし、先のために聞いておきたいけど もう戻らないと間に合わなくなっちゃう。 「え!?もう?あと30分は休みあるよ?」 「僕、別館の掃除を任されていて…」 「なるほど…、じゃあ頑張ってね。 名前決まったら教えてね」 ゆっくりと手を振る青年に頭を下げ、 僕は食器を片付けた。 あ、名前…、次会った時に聞かなきゃ。 それと、ご両親が健在って言ってたけど 主様は結構若い人なんだろうか? てっきり、こんな大きなお屋敷の主人だから おじいちゃんみたいな人かと思ってた。 斎田さんから教えてもらった資材置き場から 新しい洗剤と雑巾も貰ったし、 一階もピカピカにするぞ。 そして僕はまた黙々と掃除を始めた。 日が暮れる頃にはあらかた掃除が終わっていた でも流石に…、腰が痛いなぁ… うーん、と伸びをしていると 「まさか、本当に終わったのですか?」と 斎田さんの声が聞こえて 驚いて飛び上がった。 「さ、斎田さん!? あ、すみません。終わりました」 「驚かせてしまいましたね。 あかりをつけようと思ったのですが 不要でしたかね?」 一見冷たそうな斎田さんが 飛び上がった僕をみて笑った。 「いえ!最後に確認したいので お手数でなければつけていただきたいです」 「わかりました。先ほど確認をして気づいたのですが…、絨毯や置物はミリ単位で配置し直さなくて良いですからね」 そう言うと斎田さんは明かりをつけた。 見た目のためか、明かりのスイッチは 一目では分からないところにあった。 「え?あ、は、はい」 物の配置に時間をかけるなと言うことだろうか。 言われた通り、配置に時間をかけるのはやめて 窓や隅を磨き残しがないか確認する。 あ、ここの角がちゃんと拭けてない。 実家だったら即、木の棒が飛んできてただろう。 慌てて手持ちの雑巾で拭き取る。 「斎田さん、終わりました」 「そうですか。まさか別館を1日で掃除するなんて…、初めてかもしれません」 「えっ?」 「旦那様は娼館から雇った者には 必ず別館の掃除を命じるのです。 一種のふるいにかけているわけですが、 大抵が払い落とされますので 私は驚きを隠せません」 「そ、そうだったんですか。 でも、合格ってことですよね! 僕、嬉しいです」 「ふっ…、さあ、すすだらけの顔を洗って 服を着替えなさい。 夕食の時間です」 「へ?」 思わず、鼻を擦ると袖が黒くなった。 わ、僕、顔にまで汚れをつけてたのか。 恥ずかしい… 「ここで擦るのはやめなさい。 のびてるから」 斎田さんは笑いを堪えるように言って 僕を引き連れて2人で本館に戻った。

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