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第7話

「す、すみません。忠嗣じゃなくて… 僕、捨てられてしまうのでしょうか?」 不安になり、服の端を握って 主様に聞く。 「ふっ…、安心しろ。そんなことはしない。 忠嗣であれば死ぬほどこき使ってやろうと 考えていたところだが… その弟となれば話は別だ。 使用人としても優秀なようだからな」 「あ、ありがとうございます」 ほっと息をついたが、 主様はいまだに僕を射抜くような目で見ている。 できれば、その目をやめて欲しいんだけど… もじもじしていると、床に敷かれた絨毯の模様に目がついた。 「これ…、シナの…」 「なぜそう思う?」 「あ、す、すみません。ここの端の方に文字が書いてあったので」 「漢語が読めるのか?」 「え、ええと、少しだけ。実家と外交があった国の言葉は一通り読み書きできるようにと言われてまして」 「なるほどな。忠嗣は外国語が特に苦手だからな」 「え?いえ、お兄様は他の勉強で手がいっぱいだからと、僕が代わりにやっていただけです」 「そういうことになっていたわけか。 まあいい。 初日に別館を1人で掃除し終えた者はお前が初めてだ。何か褒美をやろう。何がいい?」 「へ?え…、褒美? 特に何も要らないですけど」 「そうか。お前のようなやつは珍しい。 特に貴族出身のやつは大抵喜んで 好き放題に注文をつけてくるがな。 こっちで適当に与えることも可能だが…」 「あっ…、褒美と言いますか、 お願いでも良いのでしょうか?」 「言ってみろ」 「こ、殺さないで欲しいです。 要らなくなったらどこかに捨て置いてもいいので、殺すのだけは…」 「ふっ…、お前は私をなんだと思っている? 人を殺したりなどはしない。却下だ」 「え?じゃ、じゃあ痛いことはしないで欲しいです」 「ふむ。痛いことはしない。 まあ多少、苦しいことはするかもしれない」 苦しいこと… 実家で掃除中に継母のドレスに モップを引っ掛けてしまい、 ほつれてしまったことがあった。 その時は何度も水に顔を沈められて 本当に苦しかった。 水責めはある…、ということだろうか? あの時の苦しさを思い出して足が震えた。 「何を想像したかは分からないが おそらく、お前が考えているような苦しさを 与えることはない。 だからそれも却下だ」 「え!?そ、そうなると本当に… 僕は特に何も要らないです」 そういうと、その場にいる3人の誰もが 口をつぐんでしまった。 斎田さんはほぼ話してはないけど ずっと僕の横についている。 数秒して、主様がため息をついた。 呆れられてしまったんだろうか… 「良い。気に入った。 斎田、準備をしてこい」 「はい」 とりあえず、怒らせたわけではなかった。 でも準備って? と、不思議に思っていると 斎田さんが僕を部屋の外に導いた。 外には女中さんのような人が3人いて 彼女たちに「頼みましたよ」と 僕を預けて斎田さんはどこかへ行ってしまった。 3人の中の1番年上と思われる人が 「さ、行きますよ」と僕を誘導する。 え、えっと…、本当になんの準備?

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