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第74話
僕の体の変化のことはすぐに主様のご両親にも連絡が行き、正式に婚約することになった。
愛人や側近は娶るつもりは一切ないから
盛大に結婚式を挙げたいと主様に言われたが
僕は控えめにして欲しいとお願いした。
それでも、相当な規模にはなったけど。
名前で呼ぶことにも慣れたし、
次は敬語をやめて欲しいと言われたけど
流石にそれは難しい。
ある程度の教養は身について、
仕事の合間に僕に会えないのが嫌だから
講習は一旦、卒業してくれと主様に言われ
今は少しの家事と手紙の仕分けをしている。
それでも時間は少し余ってしまうから
外国の本を読ませてもらっている。
部屋のドアがノックされ、
斎田さんから「お客様です」と呼ばれた。
客室にいくと西条さんがいた。
「またいらっしゃったんですか?」
思わず出た言葉に西条さんが苦笑する。
「出迎え方も夫婦で似て来たんじゃない?」
「…、すみません」
「いえいえ。慣れてますので」
だって本当に来すぎだと思う。
僕は別に構わないけれど、
主様が休憩しに部屋に戻った時に
僕が西条さんの相手をしていると
少し機嫌が悪くなる。
そしてその八つ当たりが僕にくる。
「何かご用があったんですか?」
「スイちゃんに食べさせたいお菓子があって」
「それ、一昨日も頂きましたけど」
「一昨日はケーキでしょ。今日はマカロン」
「…、ありがとうございます」
何を持って来たかが問題ではない。
そんなに重要な用事とは思えないし、
やっぱり少しの冷やかしと嫌がらせなのだろう。
西条さんは主様が嫌がる顔を見るのが好きらしい。
全く、良い性格のご友人をお持ちだ。
帯刀さんは、僕の体に興味津々なので
主様から出禁を食らっている。
西条さんは出禁にしても来る。
その違いだけだ。
「コーヒーでよろしいですか?」
僕はため息をつきながら
お茶の準備をする。
最近は、西条さんが来すぎるので
使用人に頼むのが申し訳なくて
僕がお茶の準備をしている。
暇なので気は紛れるけど、
できれば主様とは円満に生活したいのに。
「西条さんは結婚しないんですか?」
「…、スイちゃんはなかなか痛い所をつくね」
「まぁ…」世帯を持てば少しは来る頻度が減るかなって思っただけなんだけど。
「しないと思うなぁ。皆可愛いし、皆好きだもんね」
「…」
「スイちゃんも可愛いね」
「触らないでください」
西条さんはかなりの人たらしだ。
僕が男か女かは別としても、僕みたいなのまで口説き始めるんだから。
「西条、よく来たね」
客室の入り口に主様が立っていた。
笑顔を作っているけど多分あれは怒っている。
「やぁ、啓。俺はスイちゃんに会いに来たんだよ」
「…、お前も出禁にしたはずなんだけどな」
「そう冷たいこと言うなよ。スイちゃんだってこんなところに閉じ込められて寂しいよな?」
「寂しくないです」
「本当、いうようになったねぇ」
「さて、帰ろうかな」と西条さんは席を立ち、せっかく淹れたコーヒーには手をつけずに帰っていった。
本当に嵐のような人だなぁ。
「スイ。私の友人とは言え、少し気が緩みすぎてないか?」
「西条さんのあれは、ただの冷やかしですよ。啓さんが心配する必要ないですよ」
「…」
不満気な主様に僕は微笑み、「お仕事休憩ですか?」と僕は抱きついた。
機嫌が悪くても僕が甘えればしっかり返してくれる。
「私の扱いもずいぶん上手くなったな」
しまいには、主様が笑ってくれるので
僕はよくこの手を使う。
もう少ししたら、もう1人、家族が増えても良いかもしれないと、最近僕は思う。
今夜にでも相談してみようかな。
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