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14:声①

 駅へと向かう道すがら、二人の会話は弾む。 「あ、晩御飯作りすぎたときとかも食べに来る? カレーとかいっつも余るんだよなー、一人分って加減が難しくて」 「絶対に行くよ。でも本当にいいの? 社交辞令だとしても遠慮しないけど……」 「いいよ! ていうか社交辞令じゃないからな!」 「そっか、なら安心した」  礼二郎は料理が好きだが、一人暮らしを始めてから毎日自分の分だけ作って食べるのは少しだけ味気なく感じていた。 実家では多忙な両親は礼二郎の料理を喜んで食べてくれたし(ロケ弁当は直ぐに飽きるらしい)、兄はとうに家を出ているくせに、礼二郎の手料理を食べるためだけに頻繁に自宅に帰っていた。(弟バカ)  だから今朝、久しぶりに誰かと──柴と一緒にごはんを食べたのが楽しくて、しかも『美味しい』と言って貰えて礼二郎はいたく嬉しかったのだ。 「槐君、マメに自炊するんだね」 「うん、俺ほかに趣味とかないし。じゃあ料理でもするか~って、それだけなんだけど。柴君は?」 「俺は料理は全然だよ、いっつもスーパーとかコンビニで買って済ませてる」 「そうなんだ」 「やれば出来ると思うんだけど。そもそもやる気がないというか……買った方が早いじゃんって思っちゃうんだよな……」 「ははっ、それも分かる!」  礼二郎も毎日三食きっちり自炊しているわけではないので、柴の意見もすんなりと受け入れた。 《ユル、サナイ……》 「!?」  駅に着いた途端に突然、今朝夢で聴いた(と思っている)女性の声が脳内に響き、礼二郎はピタリと足を止めた。 「槐君、どうしたの?」 「あ、いや……一瞬忘れ物したかと思ったけど、違った」 (え、何何……ま、まさか幽霊!? でも声が聴こえるなんて初めてだぞ)  礼二郎は内心焦りまくり、背中にダラダラと冷や汗をかいていたが笑って誤魔化した。 霊の声が聴こえるとかおかしなことを言って、新しい友人――しかも自分を痴漢とゴキから守ってくれる親切なイケメン――を早々に失いたくないからだ。

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