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30:キス①
(俺、なんで柴君とキスしてるんだろ……)
今朝みたいな、霊力を吹き込まれるという色気もクソもない人口呼吸ではない。
──つまり柴が礼二郎にキスしたい、と思ってしているのだ。そして何故か礼二郎はそれを大人しく受け入れている。
「っふ……ぁ……」
礼二郎が抵抗しないのが分かると、柴はぎゅっと手を強く握って角度を変え、何度も口づけてきた。チュッ、チュッと可愛らしいリップ音が狭いキッチンに響く。
(意味わかんな……けど、キモチイイ……これって相手が柴く、じゃなかった。京介だから、なのかな……)
「……礼二郎」
「えっ?」
礼二郎はハッとして目を開けた。柴と至近距離で目が合う。
「鍋」
「なべ?」
「沸騰しまくってるよ」
「へっ……ああああっ!! やばいっ!!」
レトルトカレーを温めている最中だった。
*
「ご馳走様でした。レトルトカレーって久しぶりに食べたけど、美味しいね」
「きょ、京介はレトルト食べないのか?」
「んー、うち鍋無いしなぁ……」
「レンジは? 最近はレンチンで温められるレトルトあるよ」
「そうなの? レンジはあるよ。じゃあ今度探してみようかな」
「一緒にスーパー行こうよ! 俺が教えてあげる」
「ありがとう」
礼二郎は自分が柴に対してしてあげられることを見つけてウキウキだ。(既に食事という対価を支払っているのだが、何故か気付かない礼二郎であった)
夕食を食べて終えても二人はさっきのキスについては一切触れなかった。
礼二郎は照れくさくて口に出せないし、柴は既に好意を示しているので、あとは礼二郎の出方次第だと思っているからだ。
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