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③
柴はぽりぽりと頭をかいて、答えにくそうに言った。
「いや……そんなに深い意味はないんだけど、オトモダチが名前で呼んでたからさ、俺も呼びたいなって思っただけだよ……」
「そっか。じゃあ呼び捨てでいいよ! 君付けだと呼びにくいと思うし」
「礼二郎?」
「はい!」
礼二郎はいい声で返事をし、柴はクスクスと笑った。
「いや、呼んだだけ。……じゃあ俺のことも名前で呼んでよ」
「……京介君?」
「呼び捨てでいいよ」
「それはなんか恐れ多い……」
柴は礼二郎にとって、恩人なのだから。
「なんで? 全然いいよ。――礼二郎なら」
「!?」
急に耳元で聞こえた声にドキッとした。いつの間にか柴がキッチンに立つ礼二郎の隣に来ていて、礼二郎の右手をそっと握っていたのだ。
(い、いつのまに隣に……っ!? し、しかも手……!!)
無言だが目を見開いて驚く礼二郎のリアクションを柴はさらりと受け流して、再び名前呼びを促した。
「ね、呼んでみて」
「きょ、う、すけ……?」
さっきは自分から思い切り抱きついていたくせに、柴の方から近づかれると心臓が落ち着かない。
顔を覗き込まれて、柴の黒い瞳に自分の姿が映る。
「……もう一回」
「京、介……」
柴の顔が近付いて来て、礼二郎は自然に目を閉じていた。
2秒後、唇にふにっと柔らかな感触した。
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