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②
(いや待てよ、それって何でだ? 俺は柴君に多大な迷惑しか掛けてないのに……)
いくら容姿が好みだからと言って、生活空間にまで踏み込むのはなんだか違う気がする。礼二郎はもしも自分好みの女優が『礼二郎君の部屋に行きたいな♡』などと言ってきても入れたいとは思えない。
「あのさ、なんで俺だからいいの……?」
さっきは普通に受け入れてしまったが、それ自体がおかしいのだと気付いた礼二郎は顔を赤くして聞いた。
礼二郎の問いに、柴はふむ、と少し考え込むような仕草をして答えた。
「分からない?」
「う、うん……」
「じゃあ、考えておいて」
「えっ」
柴はニコッと笑うと、それ以上は答えませんという意思表示をしてみせた。
礼二郎も観念して、夕食の準備を始めた。と言ってもレトルトカレーを温めて、冷凍ご飯を解凍するだけなのだが。
「何か手伝うことある?」
「ない、……あ、じゃあ飲み物準備してもらおうかな。冷蔵庫は勝手に開けていいよ」
「了解」
礼二郎は作業をしながら、ふと聞きそびれたことを柴に訊いた。
「そういえば柴君、なんで俺のこと名前で呼ぶようにしたんだ? 全然構わないんだけど、長くて呼びにくくないか?」
「え」
柴はそれ聞いちゃうんだ、というような少し困った顔をした。その顔を見た礼二郎も、聞いたらいけないことだったか、と察して少し口元を歪ませた。
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