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(……京介は、最初から俺に優しかったな。普通、なのかもしれないけど) 「礼二郎、ギュッてしてあげようか」 「……いいの?」 「もちろんいいよ、俺たちは恋人同士なんだから。――おいで」 京介の手が顔から離れてしまったが、その代わり優しく腕を広げられた。 (そっか、恋人って……抱きついても、一緒に寝てもいいんだ。もう大人だから恥ずかしくて家族にはこんなこと出来ないし……だからといって、女の子相手にも出来ないけど。霊に邪魔されるし……) 「ありがとう」  礼二郎は躊躇なく京介に抱きついた。手を背に回して、収まりやすいポジションを探す。抱き枕みたいに全身で抱きつく体勢が一番居心地が良かった。隙間がないくらい、ぎゅうぎゅう抱きしめられるのがいい。 「礼二郎、俺のこと抱き枕と勘違いしてない? あと二時間は寝れるかな……アラームセットしてる?」 「うん。……京介、好き……」 「ぇっ?」 「京介は好き……やさしいから……」 (優しくて頭が良くてイケメンで、その上怖いものが無いなんて反則だ。除霊師ってなんだよ、かっこよすぎるだろ……虫も躊躇せずに殺せるし……いいなぁ) 「え、えーっと……俺は好き、って。誰か嫌いな人がいるの?」 「みんな……」 「え?」 「みんな、きらい……」  小学校の頃のことだ。もう誰一人、名前も顔も覚えていない。あの事件のあと、親は礼二郎を転校させたから。 「みんなって? あ、寝ちゃった。寝ぼけ方が可愛いけど、心臓に悪いよ礼二郎……あークソ、寝る前に抜いたのにまた……」  京介は礼二郎がまた深く寝入ったのを確認したあと、トイレに籠った。

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