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第三章③

 すっかり日が暮れた。街灯が灯り、園内の至るところで電飾が輝いている。遊園地のランドマークである白亜の城も、鮮やかにライトアップされている。これをバックに写真を撮りたいと考えていた薫だが、それは次の機会のお楽しみになりそうだ。  電車の窓から、ライトアップされた城の尖塔が見える。疲労と眠気で愚図っていた真純は、肇の胸に抱かれて眠っている。真純の首には、お土産に買った光るおもちゃのペンダントがぶら下がっている。  キャラクターの輪郭を模した形をしており、様々な色でピカピカ光るおもちゃだ。こういったものが子供は好きらしく、夜になり一層人目を引くワゴンショップは多くの子供で賑わっていたが、真純も例外ではなかったというわけだ。   「やっぱり、肇は真純に甘いよね」 「急に何だよ」 「お土産は一個までって言ってたのに、結局買ってあげたじゃん」    薫は、右手に提げた買い物袋を揺らした。中には、真純が欲しいと言って選んだ、黄色いクマのぬいぐるみが入っている。当初はこれがお土産になるはずだったのだが、光るおもちゃを見つけた真純が、やっぱりこっちがいいと駄々を捏ねたのだ。   「まぁ、どうせお前の金だしな」 「それね~。まさか帰りの電車賃すら持ってきてないとは思わなかったよ」 「お前が言い出したんだろ。費用は全部僕持ちでいいから! ってよ」 「ちょ、真似しないでよ」 「……それに、普段はあんまわがまま言わねぇからな、こいつ」    肇は、慈愛の眼差しで真純を見る。いや、純粋な慈愛とは少し違う気がした。肇の瞳には、憂愁と感傷が潜んでいた。   「何見てんだよ」    肇は流し目に微笑んだ。慈悲深い父親の表情から一転、妖艶な微笑を唇に湛える。   「っ、別に、何でも」    肇のどこかアンニュイな横顔に見惚れていた薫は、思わず目を逸らした。閨でするような表情を不意打ちで見せられて平常心でいられるほど、薫はまだ大人じゃない。   「はっ、分かりやすいな、お前」 「ウソ、顔赤い?」 「そういうとこだよ」    遊園地を遥か後方に残して電車は走る。車窓から見えるのは無機質な都会の風景ばかり。しかし不思議と寂しくはない。いつかまた三人で、おとぎの国へ遊びに行けばいいのだから。      あちこち錆び付き風穴の空いた、築半世紀のおんぼろアパートに帰ってきた。キャラクターの描かれた買い物袋だけが、確かな夢の証拠である。   「お前、なんでウチまでついてきたんだ?」 「肇が僕に荷物持たせるからでしょ」 「じゃあもう家着いたし、帰っていいぞ」 「えっウソ……」 「冗談だ。上がってけ」    肇は真純をさくっと風呂に入れた。入れ替わりで薫もシャワーを借り、急いで部屋に戻ると、二人は既に夢の中だった。真純を寝かし付けながら、肇も寝落ちしてしまったらしい。   「今日一日疲れたもんね」    薫は肇の寝顔を覗き込んだ。眠っていても崩れない、恐ろしく美しい顔立ち。薫はこの顔が好きだった。自分とは違う、どこか凶暴で凶悪で、それでいて色気があって儚げで、そんな複雑な美しさが好きだった。   「キスしたいな~……なーんて。えへへ……」    独りで呟き、恥ずかしくなった。寝込みを襲うなんて紳士のすることではないけれど、惚れた相手の無防備な唇に惹かれてしまうのも無理はない。愛のキスで目覚めるお姫様の昔話を思い出し、薫は赤くなった。   「しねぇのかよ、意気地なし」 「……っ! 起きてたの?」 「視線が痛くて起きたんだよ」 「そ、そんなに見つめてないし……」    肇はおもむろに起き上がると、薫を押し倒して馬乗りになった。   「な、何……?」 「分かってんだろ」    肇は僅かに腰を揺らした。ほんの些細な触れ合いだけで、薫の中心はいとも容易く熱を持つ。      これはサービスだ、と肇は言った。今日一日世話になった礼として、無料で性処理をしてくれると言った。   「いくらてめぇがボンボンでも、色々買わせちまったと思ってよ」 「ま、でも、僕が誘ったんだし……」 「真純も喜んでたしな」 「それはホント、よかったよね」 「だから、これはその礼だ。アフターサービスみてぇなもんだな」 「べ、つに、お礼なんて……」 「んだよ。いらねぇのか?」    苺よりも赤い舌の先から透明な唾液がとろりと垂れて、薫の屹立を濡らす。銀の糸のいやらしく伝う様は、まさに視覚の暴力である。   「いります……」 「ふは、正直」    まるでアイスでも頬張るみたいに呑み込まれる。熱く蕩けた唾液たっぷりのぬるぬるの口の中、しなやかな舌がねっとりと絡み付く。薫はシーツを握りしめた。そうしていないと、あっという間に持っていかれそうだ。  伏し目がちに頬を膨らませながら薫のそれをしゃぶる肇の黒髪を、薫はそっと撫でた。案外さらさらとして指通りがいい。上質な絹糸を触らせてもらったことがあるが、あれとよく似ている。  肇はゆるりと瞼を持ち上げて、上目遣いに薫を見た。挑発するように眦が緩み、赤い舌を見せつけるように覗かせて、薫の一番弱いところを舐った。   「っ! ちょっ!」 「ン……すきだろ、これ」 「すき、だけど」 「だひてもいいぜ」 「っていうか、もう……!」 「はっ、ガマン汁すごすぎ」    ぷは、と口を離すと、慣れた手付きでスキンを被せる。薫の上へ跨って、見せつけるように股を開くと、肇はゆっくりと腰を落とした。   「んっ……♡」 「っ、やば……」 「あは、あっ♡ やっぱ騎乗位は奥にくんな、ンっ」    ずっぽりハマった接合部を薫に見せるように、肇はゆるゆると腰をくねらす。そそり立った肉棒が蜜を垂らす淫穴に呑み込まれ、吐き出され、また呑み込まれる様は、目を背けたくなるほど卑猥であり、それでいて目を離せないほど官能的だ。   「んン、はぁっ♡ てめぇの、やっぱイイ形してんぜ、っ、奥まで来る……っ」 「っ……昨日、粗末なモンとか言ってなかったっけ?」 「はっ、あ♡ 言ったか? んなこと……いちいち覚えてねぇ、ン」 「どっちが本当なんだよ、お前は」    わざとらしく媚びたような、嘘っぽい肇の嬌声に、薫は心なしか腹が立った。渾身の力で下から突き上げると、肇はビクンと喉を反らした。   「んっ♡ やるじゃねぇか、坊ちゃん」 「坊ちゃんじゃなくて、薫だってば」 「はっ、薫ちゃんはワガママだな」    揶揄うように言われて、何だか釈然としない。エッチの時くらい、素直に呼んでくれたらいいのに。   「ちょっと向き変えて」 「バックでガン堀りするか?」 「違う、逆」    肇に仰向けになってもらって、正常位で事を進めた。この体勢なら、薫がある程度主導権を握れる。肇の自由にさせていたら、あっという間に搾り取られてしまう。   「ねぇ、肇は今日、どうだった?」 「遊園地か? まぁ、悪かなかったぜ」 「楽しんでくれた?」 「そりゃまぁ、見たことねぇくらいはしゃいでたからな。楽しかったんじゃねぇの」    遊園地で買ったクマのぬいぐるみと手を繋いで眠る真純を見やり、肇は言った。   「お前こそどうだったんだよ。高校生はああいうの好きなんだろ。ま、てめぇは実家の付き合いで貸切パーティーとかよく行ってんだろうけど」 「……知ってたんだ」 「俺だって一応親族の端くれだぜ? まぁ呼ばれたことはねぇけどな」    実家の経営・出資する企業が、お客様サービスとして遊園地を貸し切ってイベントを行うことがある。薫も、特別待遇としてイベントに招待されることがあるのだ。実家の話になってしまうので、肇にはあまり知られたくなかったが。   「でもでも、今日は人生で一番楽しかったよ。これはマジだから」 「そうかよ」 「本気で言ってるんだからね?」    丸一日一緒に過ごして、たくさんの思い出を作った。真純は薫にかなり懐いてくれるようになったし、肇との距離も今日一日でかなり縮まったはずだ。薫は十分すぎるほど満たされていた。  それに、父親らしい肇の姿もたくさん見られた。遊園地の華やかなBGMに彩られた美しい風景の中で真純を抱っこする肇の姿は、まるで一枚の絵画のように完成されていた。幸福の象徴そのものだった。帰ったらすぐにカメラをチェックしなければ。   「おら、おしゃべりはもう終わりだ。口じゃなくて腰動かせ」    肇は、薫の首に手を巻き付けて抱き寄せて、尻を踵で蹴って催促した。  抜こうとすれば熟れた肉襞が切なげに吸い付いてきて、奥へと押し込めば射精を促すようにきつく締め付けてくる。薫の律動に合わせ、肇は艶めかしく身を捩り、甘ったるい声を漏らす。   「なぁ、ン♡ しなくていいのかよ」 「なにが」 「キス。したいんだろ?」    煽るように差し出された舌を、薫は夢中で絡め取った。技巧も情緒もない、勢いだけのキスだけれど、遊園地で食べたショートケーキの苺よりも甘酸っぱかった。

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