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1話・運命的な一目惚れ
入学して間もない頃、友人とはぐれた俺は慣れない大学構内で右往左往していた。普段は入らない区域に迷い込んだ先で、偶然あの人を見かけた。
散りかけの桜の花びらが舞う中庭でひとり佇む姿。春の風になびく長めの黒髪と、銀縁眼鏡の奥にある寂しげな眼差しに一瞬で心を奪われてしまった。
「あ、いたいた。探したぞ獅堂 」
友人が見つけてくれるまでの間、俺はずっと中庭の片隅で放心していたらしい。気が付けば、あの人はもうどこにもいなかった。
「俺、好きな人できたかも」
「へえ、おまえが? 珍しい」
腐れ縁の友人、千代田 は俺の性格をよく知っている。過去に彼女がいたことも、結局本気になれずにすぐ別れたことも。来る者拒まず去る者を追わずな受け身の姿勢を何度も怒られている。
そんな俺が自ら誰かに興味を持ったのだから、千代田も驚くというものだ。
「誰だれ? オレが知ってる女の子か?」
「いや、女じゃない。男」
「は? 男?? なんで???」
理由なんて、俺のほうが知りたい。
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