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第2話

そして、次の日、僕は彼が言ったコンタクトを買う為に、マンションの外に呼ばれている。シンプルめの服装以外は僕はできなくて、というか、持ってなくて、毎回こんな感じで、このマンションには場違いだ。 待ち合わせ時間の5分前くらいに彼は出てきた。遅刻はしないタイプなので、意外と見た目によらず、真面目だ。 「俺より早く来るなんてキモい」 「えぇ!?」 「さっさと行くぞ、どーせ、浮かれてるんだろ、変態メガネ」 彼の私服はシンプルだが、値段はお優しくもないやつばかり。なので、絶対に触れるの厳禁。別に潔癖と言うわけでもないらしいが、この変態に触られるのが嫌なんだと。自分からはたまに触れてくるくせに、どういうことだよ。 「あのでけぇショッピングモール行けば、コンタクトとか売ってんだろ、で、ソフトなのか、ハードなのか、どっちだ?」 「えっと、ハードかなぁ……」 「ん、分かった」 俺様感、こういうときはないんだよな、本当。コンタクト、お金無いから、メガネにしなさい言われたんだよな僕、親になんて説明しようかな……友達に……なんて言いづらいこと極まりない。でもそういうしかないよな、と彼の背中を見ながら、頭を掻く。 「お前、分かりやす。俺様のときだけ、コンタクトしろって意味なの分かんなかったのかよ」 「へ?」 「親の前ではメガネで問題ねぇし。俺のときは変態くさくなるから、コンタクトにしろってことだからな」 アホ、と言われて、デコピンを食らう。額を抑えながら、なんだ、と思った。あ、でも、コンタクト買うならあれもいるよね、必然的に。 「コンタクト買うのなら……洗うやつもいるんだけど……」 「はぁ? 俺が把握してねぇとでも思ったのかよ、バカすぎるだろ」 「バカって……!」 「あーもう、着くまで黙ってろ、命令」 あまりに僕がアホすぎて呆れたらしく、あっかんべーと僕に向けてしては、小走りに前を歩いている。僕もどうにか小走りで、彼に付いて行く。そりゃ、少しバカだけど、バカの方がいいでしょ、男の子は。結局使える奴しか、よしよししないタイプだろ、コイツ。徒歩、数分で、ショッピングモールに着けば、彼は振り返って僕を確認する。 「迷子になったら困っから、背中の服でも握ってろ、手は繋がねぇから、掴むんじゃねぇぞ」 うわぁ……まだ変態扱いされてる。別にいいじゃん少しくらい、と思うが、苦笑いしながら、彼の後ろに立ち、彼の上着のジャケットを掴んだ。その感覚が彼に伝われば、歩き出される。先程とは違い、小走りではなく、丁度いい速度で歩いてくれるので、びっくりしてしまう。 「お前、後ろから変なことしたら、コンタクト買うの無しにするから、気を付けろよ」 ギロリと見つめる視線にコクコクと高速で頷けば、うわっと引いたような顔をされる。本当にこいつの情緒が良く分からない。 「んーっと、確かにあっち側だったな」 うわぁ、めっちゃいい匂いするなぁ、周りの雰囲気に思わずキョロキョロしてしまうのを彼に見られて、軽く頭にチョップを食らう。 「おい、お前、それは後でだ。今は俺の背中だけ見とけ、変態」 「え……?」 キョトンとしながら、言われるがまま、背中を見つめつつ、この後、なんか一緒にご飯できちゃうの? ぱぁっと顔を明るくさせて、ふふん♪ とご機嫌になれば、「きめぇからやめろ」と低い声で言われるので、誤魔化しの笑い方をしながら、黙った。やばい、勇助くんとなんか……デートしてるみたいで、変に考えちゃう! こういうところが多分、気持ち悪いんだろうな、と少しだけ落胆した。 「ほら、あそこだ」  「うわぁ……高そう……」 「金の心配だけはすんな。俺の為の金だし」 えぇ、と思いながら、眼科の先生に言われたことを思い出しながら、僕はコンタクトを選んで、これがいいとすると、彼は既に洗浄のを選び終えていて、手に取り、会計してくれる。10分もかからず、終えたので、あっという間だ。 「ま、コンタクトだから、なんかあったら言えよな」 「え? あ……うん??」 「で……お前は腹が減ったみたいな顔してるよな、昼前だぞまだ」 目を細めながら、彼に言われて、僕は目を泳がせる。確かにまだ早くて、でも、一緒に何処でもいいから食事したい……が、許してくれるわけないよなぁ、と悲しみの顔になっていく。 「の前に、コンタクト付けてこい。トイレあっちだ」 「あ……」 ですよねぇ、と少しだけ走り、僕は男子トイレに駆け込んでは溜め息を出す。何やってんだか、今日は彼の気まぐれでコンタクトを買いに来ただけ、それだけなんだ、その先に何があるかなんて、期待するだけ無駄。そう無駄。そう言い聞かせて、トイレの鏡の前で、メガネを外し、ズボンのポケットに入れてはコンタクトを取り出し、両目装着する。久しぶりのコンタクトなので、違和感が凄いのは分かっていた為、瞬きを何回かして、よしっと思えてから、僕はトイレから出れば、彼は待ちくたびれた顔をして、出てきた僕を見る。 「変態っ気は消えたな、お前、メガネよりこっちがいいわ」 「え……そんなにメガネ似合ってない……?」 「さぁな? 俺様、メガネフェチじゃねぇから知らね」 えぇ……、と口にした瞬間、彼は僕の手を取り握り出すので、心臓が止まるかと思った。顔を真っ赤にして、びっくりしていれば、彼は振り返り、僕の顔を見て、眉間に皺を寄せる。 「お前……これくらいで恥ずかしくなんのか、恋愛偏差値なさ過ぎ」 「だ、だって……」 そのまま手を繋がれてしまっているため、ドキドキが止まらず、手汗が滲みそうで、ヒヤヒヤしながら、彼に付いていく。 「昼飯の前にとりあえず、お前の服装も1着だけ買うか」 「えぇ!?」 「少しは見た目がマシになったんだから、服もどうにかしねぇとな、あー、帰るとき没収するから浮かれんなよ」 浮かれそうになっていたら、トドメの言葉を刺されて、少しだけ眉を下げて悲しくなった。結局、僕は下僕に変わりないんだなって実感するからだ。 「こことか金額的にもいいか……」 そう言われてから手を離され、彼は僕の顔を見ながら、服を吟味している。別にいつもの服でいいじゃん、友達でも何でもないんだから……、俯いていると、彼の指で頬が押される。 「えっ?」 「顔見ねぇと決められねぇから、下向くな、今、下向くの禁止な」 彼に触れられると触られたところが熱くなるような気がしてならない。やっぱり僕って、単純なのかもしれない。彼はこんな気持ち悪い僕をよくこき使えるな……なんて考えている間に、彼は決めたようで、店員さんにタグを外してくれ的なことを言っている。あー……彼が買うんだからそれなりの値段しそうで怖いんだけどなぁ、と体を硬直して待った。 「んっ、着ろ」 「あ、うん……」 レジ袋から取り出された服をあまり見ずに手に取れば、言われるがままに自分の着ていた上着を脱ぎ、レジ袋に入れてから買ってもらった服に変える。彼が買ったのは紺色のジャケットで、しっかりしていてこんな僕が借りていいのかと冷や汗が出そうだった。 「ん、まぁ悪くねぇな」 「あはは……汚さないか不安だよ……」 「んな不安になってる場合か? 今から飯食べるから腹括れ」 「え……」 腹パンしてやろうか、と言われるように拳を僕の視界に入れられたので、コクコクと頷き、腹パンを回避した。なんか、やっぱりデートみたいだな、こういうの。また彼は手を握る為、引っ張られるように、フードコートの方へと連れられる。あんまりこういうところに滅多に来ない為、周りにいるカップルを見て、落ち込みつつ、羨ましい目で見てしまう。だが、自分は男が好きなので、必然的にカップルは男同士と言うことになるので、無理だ、と余計に落ちる。 「お前、何を最近食ってねぇんだ?」 「え……えーっと……ジャンクフード意外と食べてないね……親のご飯ばっかりで……」 「うわ、貧乏って感じすんな」 金持ちにとってはジャンクフードなんて食べ放題だろうしね!! 彼に向かって眼力を飛ばせば、「あーはいはい」とスルーされた。金持ちアピールするなよ、心痛いんだぞ、こっちは! 同級生に奢られるなんて夢にも思わないし……。少しだけ歩いてはジャンクフード近くの席で彼は立ち止まり、席を指差す。 「下僕はここで良い子に待ってろ」 「あ……うん」 手を離されて、彼はジャンクフードの注文のところに行くので、僕はぽつんと席に座り、彼が注文終わるのを待つ。あー、本当に何年ぶりくらいにジャンクフードって食べるかな、それくらいに自分は食べていない。家に引きこもっている感じなので、本当に食べていない。久しぶりなので、凄く嬉しかったりはする。 「ほらよ、お前は烏龍茶な」 「ありがとう」 「このブザーが鳴ったら、出来上がるから待ってろ」 氷の入った烏龍茶をストロー付きで渡された。彼はアイスコーヒーだった。苦いの飲めるんだ、と知っては自分は飲めない為に、大人だとも認知した。 「何だよ、コーヒーが良かったのか?」 「ううん、ブラック僕飲めなくて……」 「うわ……子ども」 「勇助くんだってまだ高校生……」 反論すれば、デコピンが飛んでくるので、痛い。本当に彼は僕より全然、大人だけど、少しくらい意地張ってもいいでしょ、高校生なんだから! キモいだろうけど。ぷくっと頬を膨らませて拗ねていれば、テーブルの下から足を蹴られる。 「おい、お前お子ちゃまだから、チーズバーガーとかでいいだろ。あ、ダブルだけどな」 「え、チーズ好きだよ!」 「うわ、マジ子ども、つか、女感」 「チーズ好きは女の子以外にもちゃんといるよ〜」 ブラックコーヒーをストローで啜りながら、眉間に皺を寄せてこっちを見るので、こっちもやり返すように足を蹴る。 「ってめぇ……下僕なのにいい気になってんなよ」 あ、ヤバイ、怒らせた、と思ったところでブザーが鳴ったので、そのブザーを手荒く手に取り、彼は席を立ち、受取口に行く。はぁ、あとでなんか言われるか、とんでもない命令でもされるんだろうな、と頭を抱えた。すると、後方から「下僕」と呼ばれた気がしたので、振り返れば、来いと首を振られるので、さっと席を立ち、行く。 「これ持ってこい、さっきの罰ゲームだ」 「……ごめんなさい……」 素直に謝りながら、僕はバーカー、ポテト、ナゲットがあるプレートをそっと持ち、席へと運んだ。 「良くできました」 カタコトで言われて、彼は自分のバーガーを手に取ってから、僕のバーガーを渡す。 「とりあえず食え」 「あ、ありがとう、頂きますっ!」 手を合わせてから、久しぶりのバーガーを見て 目を輝かせてはパクリと頬張る。 「ん〜っ!」 声を少し出しながら、笑顔になる。やっぱりチーズ美味しい♡ 子どもでもいい、これだよね、と食べ進めていく途中、彼をチラリ見ると、目があった。 「んだよ、お前」 「い、いや、何も……」 ふと見た顔は少しだけ、ほんの少しだけ、微笑ましそうにしていたのを僕は見た。ぼけーっとしていると、鼻を摘まれる。 「冷めねぇうちに食わねぇと廃棄処分だぞ」 「そ、それは困る!」 鼻から指が離れるのが分かれば、ちゃんと噛みつつ、食べた。食べ終われば、彼を見る。このポテトやナゲットは食べていいのだろうか? と様子を窺うように。 「あ? あー……俺が食う分取ったら、お前も食え、俺そんなに食えねぇし」 「ほ、本当に? やったー!」 「ガキすぎ」 あ、と我に帰って、口を手で塞ぎ、彼が自分のを取るまで待つ。取り終えたのを確認すれば、ニコニコとポテトを食べて、また幸せそうな顔になる。ナゲットに付いているケチャップをポテトに少し付けて食べたりもした。 「おい、付けすぎんなよ、ナゲットもあんだぞ」 「あ……」 「アホ」 軽いチョップがお見舞いされる。彼は一つ、ナゲットにケチャップを付けて食べてはケチャップは僕のところに置かれる。 「ま、俺はそのままで食えるからあとは好きにしろ」 「なんかごめん……」 「別に」 素っ気ない態度をされるのが少し気になるが、食べることが今は優先されるので、そこからは気にせずにケチャップを両方に付けて食べた。ジャンクフードでお腹は満たされて、ご満悦になった。 「もう動けない……」 「んな早く行動しなくてもいいし、俺も今は動く気分じゃねぇよ」 「……今日はありがとう、勇助くん」 突然の感謝の言葉に彼は目を点にさせて見てくる。あれ、変なこと言ったかな、となるが当然のことを言ったと自分は思うので、そこから何か追加で言ったりはしない。 「別に俺様の為でもあるから、感謝とか要らねぇんだけどな」 「そうかもしれないけど、僕は嬉しかったよ、勇助くん」 ニコリと笑えば、彼は何やら目線を逸らす。あれ、彼ってもしかして、感謝の言葉に慣れてない説ある? 「もしもーし?」 顔を覗き込めば、彼は慌てるように僕の頬を反対側へと向けてくる。何これ、俺様イケメンって実は可愛い? クスクスと笑っていれば、彼は席を経って、僕が着ている上着を脱がせた。 「今日はもうここで解散だな、じゃっ」 「え!?」 思わず僕は席を立ち、声を出すが、既に遅し、彼は颯爽と人波に紛れて分からなくなっていたので、僕は呆然としては席に座り、氷がだいぶ溶けた烏龍茶を啜った。 「あんなキモい奴のことなんかどうでもいい……アホ」 人波に紛れながら俺はそう口にした。自分の心を少しだけでも隠すために。 「あ、コンタクト外さないと親にバレる!!」 彼が去ってから数分、返却口にジャンクフードのプレート等を返してから、僕はやるべき証拠隠滅をドタバタしながらしてから家に帰ったのだった。

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