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クリスマス2023
「明日の夜、恋人同士が共に過ごす、というのが流行っているらしいのだが一緒にどうかな?」
夜、春雷の家にやって来た清明が、突然そんなことを言い出した。
「なんだそれは?」
「元は異国の文化だそうだが、贈り物をしたり食事をしたりして過ごすのだとか」
「なるほど」
「急なので、贈り物は無しにして、食事だけでも一緒にどうだろうか。明日ここへ来る時に持って来るよ」
春雷も、私も何か用意しようか? と聞いたが、大丈夫だと言って清明はすぐ帰ってしまった。
「ふむ……」
春雷はその”異国の文化“とやらについて、とりあえず明日誰かに聞いてみることにした。
・ ・ ・
翌日。
いつも遅い時間にやって来る清明は、今日は夕方頃に多くの荷物を持ってやってきた。
従者が何人か、家の中に荷物を運び入れて帰っていった。並んだ箱の周りにはすでに良い香りが漂っている。
「これまさか全部料理なのか?」
「うちの料理人に話をしたら、沢山作ってくれたんだ」
本当は、清明の家に春雷を招いた方が早いのだが、春雷はいつ急病人が来ても大丈夫なように、あまり家を離れたがらないので、清明が春雷の家に来るのが平常となっている。二人きりになれるので、それはそれで都合が良い。隙間風が入ってやや寒いのが難点だが。
箱を開けてみると、料理が入った器がしっかり蓋をして入れられている。器が動かないように隙間に布が詰められていて、そのため料理がまだ温かい。
料理を机に並べて、向かい合って座る。
持ち運ぶために、盛り付けたというより器に入れただけの状態だが、焼いたものや煮たものや様々な料理があって華やかだ。
「すごいな」
「酒も持ってきた」
たまにここで一緒に食事をすることもあるが、簡単な料理ばかりで、ここまで豪華な食事が並ぶのは初めてだ。飴色に焼かれた山鳥に、緑の野菜と赤いクコの実が添えられた一皿が、今日の主役なのだと説明された。
「贅沢すぎてちょっと驚いている。でも、ありがとう」
たまに清明の屋敷に行った時、豪華な食事だなと思ってはいたが、立派な屋敷の中で見るのと、古くて狭い家の中で見るのとでは全然印象が違って見える。
「さあ、食べよう」
料理はどれも素晴らしい美味しさで、どの味付けが好みだとか、そろそろ雪が降りそうだとか、そんな会話をしつつ二人は食事を楽しんだ。
「清明、ちょっと連れて行きたいところがあるんだが」
食事を終えてゆっくり酒を楽しんでいたところで、春雷が話を切り出した。
「こんな時間に?」
「すぐ近くだ」
そう言って春雷が席を立ったので、清明も盃の底に少し残っていた酒を飲み干して立ちあがった。
外に出ると、今夜は月も大きく夜道でも明るい。
しばらく歩いたところで、木が生い茂っている場所にたどり着く。
春雷は一本の木の下で立ち止まると上を指差した。
「あれを見て」
枯れ木の上にはモサモサした丸い塊のようなものが見える。
「鳥の巣か……?」
「あれは桑寄生(そうきせい)と言って、木に寄生して育つ性質の木だ」
清明は山で同じようなものを見かけた事があるが、鳥か虫の巣だと思っていた。
「腰や関節の痛み、女性の産後の回復などに効果があるもので……」
「薬効があるのか」
「……いや、そんな話がしたかったのではなく……」
春雷は口ごもって言った。
「その、“恋人と過ごす日”とやらでは、この木の下で口付けをすると良いと聞いて、ここに生えていたことを思い出したんだ。そうすれば愛が永遠に続く……とか何とか……」
「薬効の他にも、そのような効果もあるのか。それでは……」
清明は異国の言い伝えに神妙な顔で関心した後、おもむろに両腕を広げる。
春雷はその腕の中に身を寄せると、乗り出して唇を重ねた。
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Merry Christmas!
桑寄生(そうきせい):ヤドリギのこと。
クリスマスの夜にヤドリギの下でキスをすると幸せになれる、的な伝説です。
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