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第5話-1 噂話 

「あの、先輩がたは付き合っているんですか?」  食堂でふいに後ろから声をかけられた。どうやら後輩のようだ。いきなりなんてことを聞くんだろうか? 好奇心からだろうか? 「……別に」  サミュエルが睨みつけながら答えた。そうだよ。彼は責任感が強いだけで僕らは付き合ってるわけじゃない。わかってるのに胸に棘が突き刺さったようだった。 「やっぱり!」  目がクリクリした可愛らしい男の子が興奮気味に叫ぶ。 「アルベルト先輩。本当は無理して一緒にいるんじゃないですか?」 「え? 何のこと?」  何を言ってるんだろうか? そういえばこの子見覚えがある。 「君……先日僕が訓練相手になった子だよね?」 「そうです! 覚えててくれたんですね。ジュリアンと言います」  指導力を高める一貫で後輩の実技にアドバイスをする事も訓練のひとつだ。何人かを相手に構え方や剣の指導をする。その中の一人だったようだ。 「あのあと、教えられたようにしたら本当に戦いやすくなったんです」  剣をふるうときに体重を傾けるくせがあったのを指摘しただけだったのだが、くせが治ったということだろうか? 「そうかそれはよかったな。鍛錬に励むといいよ」 「はい。アルベルト先輩は凄いです! 優しいし綺麗だし。僕、僕は」  男の子がもじもじしながら話を続ける。 「あの、あの。角部屋なんですよね? 今度お邪魔してもいいですか?」 「あぁ……」  僕が返事をしようとしたのをサミュエルが遮った。 「だめだ! 規則違反だ。理由もなく他の部屋に行くのは禁じられてる」 「り、理由はあります! ぼくは貴方からアルベルトさんを救いたいのです!」 「……はあ?」 「……」  無言だがサミュエルの顔が引き攣っている。これは怒ってるな。 「貴方がアルベルトさんを脅してるって皆が言ってます! ぼくは……」  震えながらサミュエルに歯向かっている。この子は何か勘違いをしているんだ。ここはきちんと正さなくてはいけない。  「それは違うよ。サムは人を脅したり悪いことをする人間ではない。彼はとっても頼りになり好感が持てる人だ。僕はサムの事を信頼している」  そうだ。僕の自慢のルームメイトなんだ。 「……アル」 「ほ、本当なんですか? 騙されてはいませんか?」 「何に騙されるんだい? サムは言葉が少ないから誤解されやすいがとても真面目で紳士的なんだよ」 「紳士的? 信じられない。蛮人のようなイメージなのに」  どんなイメージなんだ? いくら何でもヒドイ言い草だ。

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