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閑話 帰郷-4
「ついでにそこで居合わせた貴殿の部下達だが実戦不足だったので俺が訓練しておいた」
侯爵は僕を本気で連れて行こうと部下を待機させていたのか。それをサミュエルは倒してくれたんだね。さすがだ。
「は? なんだと! くそ。覚えておれよ!」
侯爵は廊下で転がっている部下をかかえて帰って行った。
「どうしよう。この家で侯爵様の部下に暴力をふるうなんて」
父さまがおろろしている。
「おや、大丈夫でしょう。訓練だったのでしょう? 鍛えてもらえてよかったのじゃないかしら」
母さまの笑顔が怖い。
「挨拶が遅れました。俺はサミュエル・ブラッドリー。アルベルトを愛しています」
「僕もサミュエルを愛してるんだ! 結婚するならサミュエルじゃないと嫌だ」
あー、この言い方じゃ子供が駄々をこねてるみたいだ。でもサミュエル以外となんて考えられない。
「俺は卒業と同時にアルと結婚し、騎士団支部団長となります。辺境伯となりアルと領地を守っていきます」
「アルベルトを辺境地に連れて行くと言うのか!」
父さまの顔が引き攣っている。
「はい。連れて行きます。俺がアルと一緒に居たいのです。どれだけ疲れて帰ってきてもアルの笑顔を見るだけで癒される。アルがそばに居るだけで俺は生きていけるのです」
ひゃあ。恥ずかしい。真顔で堂々と言ってのけたサミュエルに兄上が赤面してる。それに隣にいる母さまの目がキラキラしてる。
「本気でアルベルトが好きなのですね? 一時の気の迷いでなく、一生をかけてこの子を守ると誓えるのですね?」
「神かけて誓う。俺はアルを幸せにしてみせる」
「サム。それは結婚の時に言って欲しい」
「そうだった! すまない。何度でも誓う。アルが気が済むまで何百回でも何千回でも」
サミュエルが僕の機嫌を取るように目じりにキスをしながらすまない、愛してると繰り返し囁く。
「こほん。あー、もうわかったから。親の前であまりイチヤつくな」
父さまが苦虫を潰したような顔をする。
「式にはお呼びいたします」
「当たり前だ……いえ、ありがたき幸せでございます」
ここにきて爵位がサミュエルの方が上だと思い出したのだろう。父さまの顔がまた青くなった。
「「兄さま。大丈夫なのですか?」」
「アル本当に結婚するのか?」
別部屋にいた兄弟達が顔をのぞかせる。
「うん。勝手に決めて皆ごめん。でも僕はサムについて行きたいんだ」
その後はサミュエルを加えての一家団欒になった。口数は少なかったがずっと僕の腰を抱いていたサミュエルに皆は少しずつ打ち解けていった。兄上の士官の話もサミュエルを通して確認してもらった。侯爵家を通じなくても兄上自身を気に入っての話だったらしい。今後は公爵家が後ろ盾になってくれるらしい。やったね兄上。
「爵位を超えて言わせてもらえば、私は息子が一人増えたと思っているのよ。サミュエルさん、これからは遠慮せずにうちに遊びにきてちょうだいね!」
母さまの言葉にサミュエルがうなづいた。心なしか目が潤んでる様に見えるのは見間違いではないだろう。
帰りの馬車の中でサミュエルがぽつりとつぶやいた。
「アルは母親似なんだな」
「そうみたいだな。僕は女顔だってよく言われるよ」
「いや、性格が……」
「え? なんだって」
「なんでもない……」
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