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閑話 帰郷-3
誤解がひどすぎる。侯爵家とは関係ないと僕が説明しようとしても、皆は無理はしなくていいと僕のいう事を真に受けてくれない。
しばらくして背の高い白髪の軍服を着た男性が現れる。
「おお。これは侯爵さま。今お話をさせていただいていたところです」
「そうであったか。では話は早いな。アルベルトとはこの子か。なるほどジュリアンが執着するのが分かる気がする。綺麗な子だ」
「いかにも僕はアルベルト・ツイリーですが何の御用でしょうか?」
「これ、アルベルト。侯爵殿になんて口の利き方をするのだ」
父さまが焦っている姿が滑稽に見える。
「はっはっは。これは見かけによらず気が強そうだ。君は今から我が家のモノだ。このまま儂と一緒に来てもらおう」
「お断りします! 僕はモノではありません」
「ふん。そのような事申してもよいのか? 兄の士官の話がなくなるぞ」
そうか。兄上を巻き込んでの茶番劇だったのか。目の前の兄上の顔がどんどん青ざめていく。さすがに今の侯爵の言葉に不信に思うことがあったのだろう。母さまはこういう駆け引きが大嫌いな性格だったはずだけど?
「ちょっとお待ちくださいな。それはどういうことですの? 侯爵様のお話とは違うようではありませんか?」
母さまの言葉に父さまと兄上が固まる。そうなのだ。我が家で一番実権を握っているのは実は母さまなのだ。
「女性は黙っておられよ」
侯爵が冷たく言い放つと母さまの額に青筋がたった。
「それは……聞き捨てならない言葉ですわね。アルベルト、私たちは侯爵様からお前がサミュエル・ブラッドリーに脅されてると聞いてたのよ」
「はあ? そんなの嘘です!」
「お前が侯爵家のジュリアンさまと恋仲なのに同室のブラッドリー家の子息に無理やり襲われ傷物にされたからあわてて婚姻させられると言われていたの」
うっ。半分あっている気もする。でも無理やりじゃないし、ジュリアンとはあれ以来話してないし……。
「黙れ! 儂が直々に格下の家まで来てやっているのだぞ。悪い様にはしないと言っておるだろうが! 黙ってついてくればいいのじゃ」
「そこまでだ!」
地を這うような低い声が部屋に響いた。
「サム?」
振り向くと汗だくになったサミュエルが扉の前に立っていた。まさか、本当にすぐに会いに来てくれたの?
「アル。遅くなってすまない」
「サム!」
僕はサミュエルに抱きついた。
「お前……何故ここに?」
侯爵が顔をゆがめて問いかけてきた。
「何故? 貴殿が騎士団に寄こした襲撃話しが嘘だったからだが? 団長はすでにおわかりだったようだ。近いうちに王都からこの件について貴殿に問い合わせがくるだろう」
サミュエルは僕を抱きしめながら侯爵と視線を合わせたまま話続ける。
「我が子可愛いさから周りを巻き込んで騒ぎを起こすのが侯爵家のやり方か?」
「な、何を言う。言いがかりだ! この儂に恥をかかせる気か? 貴様ただですむと思うなよ」
「その言葉そっくりそのまま返すぞ。俺を怒らせるな。何をするかわからないぞ」
こう言う時のサミュエルは獰猛な狼に見える。隙あれば相手の喉元を掻っ切るだろう勢いだ。僕はまだ経験はないがすでにサミュエルは騎士団とともにいくつかの修羅場を乗り越えてきたのだと言う。つまりは実戦済みなのだ。迫力が違う。
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