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第13話-1 辺境地グリーンヘルツ

 王都から離れ馬車に揺られてやってきたのは辺境地グリーンヘルツ。  緑が多くて空気が美味しい。深呼吸すると肺の隅々まで洗われるようだ。 「自然が多くて綺麗なところだね」 「そうか。気に入ってもらえてよかった」  サミュエルが嬉しそうだ。この土地で辺境伯として暮らしていくと決めたのだから思い入れのある地なのだろう。僕も早くここに馴染めるようにしよう。  屋敷に着くまで広大な畑や森を通り過ぎた。かなりの規模がある。これをすべて管理するのは大変かもしれない。 「よくぞおいでになられました」  僕たちを出迎えてくれたのはロマンスグレーの紳士だった。 「任せきりですまなかった」 「いいえ。いずれこの地に戻るという約束を信じておりました」  サミュエルはうっすらと笑うと僕の腕を引いた。 「紹介しよう。アルだ。俺の大事な人だ」 「アルベルト・ツイリーと申します」 「……執事のデセルトと申します」  デセルトは一瞬驚いたようだがすぐににこにこと嬉しそうに僕を見つめるとサミュエル様をよろしくお願いしますと言った。 「分からないことがあればなんでもデセルトに聞けばいい。」  辺境地の屋敷は白を基調としたしっかりした石造りの城だった。天井を支える半円アーチ。土台を支える分厚い壁や柱には細かな彫刻がなされていた。ロマネスク調といったところか。かなりの財を尽くした城ともいえる。 「有事の時はここは砦となるように作られている」 「やっぱり?重厚な建物だと思ったよ。じゃあ、あの塔は見張り台になるの?」 「そうだ。ここは隣国との境界地。守りを固めるために父上が作られた場所だ」  僕は王都周辺から動いたことはない。こういう場所があるのは知っていたが見るのと聞くのとは大違いだ。サミュエルが騎士団の支部を作ろうと思ったのもわかる。なるほどここなら良い拠点になるだろう。 「サミュエル様だ!おかえりなさいませ!」 「サミュエル様がお戻りになられたぞ」  城の使用人たちは白人だけでなくサミュエルと同じく褐色の肌のものたちもいた。どうやらこの土地特有の民族の中に褐色の肌を持つ人種がいるようだ。皆、僕を少し遠巻きに見ている。やはり突然やって来た僕は部外者といった印象なのか。まあ、わかっていたことさ。何事もあたってくだけてみよう! 「アルベルトです。よろしくお願いします!」  僕は大きな声で皆に挨拶をした。使用人たちは驚いた顔で僕を見ている。なんだ?どうしたっていうんだ? 「皆アルにいろいろ教えてやってくれ」 「サミュエル様があんなやわらかな表情をされるなんて」 「それに笑っておられたぞ……」  その日の夜は疲れが出たのかすぐに眠ってしまった。息苦しさに目覚めるとサミュエルに抱き込まれていた。褐色な肌に逞しい体は野性的でカッコいい。黙って見惚れているとくすりと笑われた。 「起きてたの?」 「いつ声をかけるかと思っていたのだ」  くくくと笑う笑顔が可愛いとさえ思う。ぎゅっと抱きしめられて恥ずかしくなる。 「もぉ……なんだよ」 「いや。夢じゃないのかって確かめたくてな」 「ふふ。夢じゃないよ」  僕はサミュエルの顎先のちゅっとくちづけをするとおはようの挨拶をした。幸せだな。  使用人たちは僕らが同じ部屋から出てきたのを見て更に驚いていた。なんだ昨日から? 「……朝食の準備ができております」 「ありがとう!」  僕があいさつをすると使用人がそそくさと逃げていく。気にしない様にしよう。食堂に入るとサミュエルが当然のように僕の腰を抱くと食卓迄僕をエスコートをする。そのたびに使用人たちは唖然とするのだ。どうしたというのだろうか。  少しでも早く馴染みたい。食事の合間も僕はこの城の事を知りたくてデセルトやサミュエルを質問攻めにした。  ここは公爵がサミュエルの実母のために建てた城でもあるらしい。それが建築していくうちに国境にも近いからと砦のような設計になってしまったそうだ。実母はサミュエルと離された数年後に他界する。サミュエルがこの地を訪れたのはそこから数年がたってからのことだったらしい。ちょうど義母に子供ができた辺りからサミュエルの風当たりが強くなりこの地に一時的に身を寄せて居たのだという。 「サミュエルには思い出の地でもあるんだね」 「この地は知り尽くしているしな。新しい人生を始めるにはいい場所だと思ってたのだ」 「そんな大事な場所に僕を連れて来てくれてありがとう」 「ここがアルの地ともなる……よろしく頼む」 「うん!頑張るよ!」

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