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第13話-2
午後からは城の中を案内されることになった。広い敷地だと思っていたが別棟には宿舎や馬小屋も配置されている。訓練場も完備されていてた。
「我が領の自警団だ。多少の事なら王都に要請をださなくともここで処理ができる」
そうかこれだけ広大な領地。ここの治安が良いのはすぐに対応できる自警団がいてくれるからなのか。それにしても城の中に自警団を雇い入れてるなんて凄い。
「訓練に参加するか?」
「うん!是非したい」
「サミュエル様!お戻りでしたか!」
「ああ。今戻った!」
「「「おお。おかえりなさいませ!」」」
「皆、アルだ」
「アルベルトです!よろしくお願いします」
「ほぉ?貴殿がアルベルト様?……これは……。俺は団長のヴァイスです」
ヴァイスはムキムキで図体がデカイ熊みたいな容姿だ。だが貴族らしい威厳もある。
「ヴァイスと俺は幼馴染なのだ」
「はは。よく二人で森で迷子になりましたな」
「そうなんだ?あとで聞かせてね」
「こほん。ヴァイス、手合わせをさせてもよいか?」
「え?アルベルト様も一緒にですかい?」
「はい。よろしくお願いします!」
僕が訓練場にはいるとざわざわと騒がしくなる。ちょっと緊張したが剣を持つとすっと余計なことは気にならなくなった。2~3人と手合わせをする。久しぶりに剣をふるって体を動かすと気持ちがいい。
「これはなかなか。みかけによらない」
「アルベルトの太刀筋は美しい。俺は一度で見惚れた」
「ぶっははは!なんとサミュエル様から惚気を聞かされるとは!」
「……うるさい」
「だがわかりますよ。動きに沿って金色の髪がたなびく。だが体幹がしっかりしているから軸がぶれない。それにあの美貌だ。まるで太陽神のようじゃないか」
「……惚れたら殺すっ!」
「物騒なこと言わないでくれ!っと。本当に本気なんですね?」
「当たり前だろ?何かあったのか?」
「ええ。実は……」
ひと汗流すと気になった点を対戦相手にアドバイスをしたくなった。
「君は剣を構えた時に右足が少し後ろに引いてしまう癖があるから踏み込みが遅れるようだ。それからそちらの君は肩をいためてるのではないか?剣を上げるスピードが遅かったが……」
「え?そのとおりです!今のでわかったんっすか?」
「すげえ。お、おれも!俺も手合わせしてえ!」
「ははは。ありがとう!これから毎日顔を会わせるんだ。明日も来るよ!」
「もういいだろう?」
サミュエルが後ろから抱き込んできた。
「うん!楽しかった!毎日来たい!」
「……毎日はだめだ。他にも覚えることがあるからな……」
急にまわりがしんと静かになった。皆の顔が引き攣っている。サミュエルが僕の背後でなにかしたのか?
「そっか。ごめんね。皆。でも僕稽古は好きだからまた参加させてね」
「「「もちろんっすよ!」」」
皆頷いてくれてる。よかった。
「サムいいでしょ?」
「……たまになら」
「サムはこの自警団の皆を騎士団支部に入れようと思ってるのでしょ?」
「そうだ。アルは俺が言わなくても理解が早くて助かる」
「だったら僕も参加させてよ」
「……荒くれの男ばかりだ。アルには領地経営に力を入れて欲しい」
「わかった。じゃあ、そちらができるようになったら僕も参加させてね」
「……なるべく他の男には会わせたくない」
ぼそぼそと小さな声でつぶやいた声に頬が熱くなる。
「妬いてくれてるの?僕にはサムしか見えないのに?」
「アル……」
噛みつくような口づけをされて僕はその逞しい体に手を回した。抱き寄せられて口づけが深くなる。
「お楽しみのところ誠に申し訳ございませんが予定外のお客様が来られておられます」
デセルトが申し訳なさそうに声をかけてきた。
「…………」
「何度かお断りしたのですがサミュエル様に会えるまでは帰らないとおっしゃられまして」
「誰だ?」
「アンジェリカ様です」
「……チッ」
「アンジェリカ様って?」
「サミュエル様の婚約者……を名乗っておられです」
はあ?婚約者だって?!
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