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第15話-1 なんだそれ

 デセルトに収支報告を受け、実際に農家を見て回る事にした。馬を一頭借り、早駆けで駆け回る。サミュエルも心配でついて回ってきてくれている。  行く先々での反応は微妙だった。まず、サミュエルが何故辺境伯となりこの地を治めるようになったのかという話からしないといけない。すると皆口々にアンジェリカ・ノワールとの結婚が決まったのかと聞いてくる。そうか。それだけノワール伯爵家はこの地への影響が大きいのだな。領主不在で実権を握りつつあった勢力とでも言おうか。 「本当ならその伯爵家と仲良くしたほうがいいんだろうけどね」 「嫌なものは嫌だ」 「だけど、農作物の収穫などはすべてノワール家が引き受けているようだよ」 「…………」  ん?待てよ。すべて引き受けてる? 「すみませんがこちらでの帳簿や出来高の記録を見せてもらえませんか?」 「え?そんなものどうなさるんっすか?」 「今後の勉強にさせていただきたいのです。一年にどれだけ収穫があるかわかっていれば足らない農具とかも早めに注文できたりしますしね」 「おお!そうなんっすね。わかりやした!」  僕の言葉に農家の皆さんが協力的になった。あながち嘘ではない。経済的に余裕ができれば各農家の補助も手厚くしていくつもりだからだ。 「協力ありがとうございます」 「アルベルト様はお貴族様なのに偉ぶったところがないっすね」 「ふふ。僕たちがこうしていられるのはここにいる農家の方々や領地の皆さんが頑張ってくれてるからなんだよ」 「……!なんてお優しい方なんだ」 「んだ。|別嬪《べっぴん》なだけじゃねえ。巻き毛姫とえらい違いだわ」 「巻き毛姫?」 「ノワール様とこの早口のお嬢様のことですわ」  ああ。そういえばくりくりの巻き毛だったような。朝からあの髪形をするのは大変だろうな。それより皆に見せてもらった帳簿とデセルトに聞いていた収支報告にズレがあるような気がする。やはりな……。 「しかしサミュエル様も隅には置けませんだ、こんなに綺麗な方を連れて帰るなんて」 「んだんだ。おいらたちにも優しいし、それに見た目と違ってはっきりと物をおっしゃる」 「そうだ。アルは素晴らしい」 「え?……おいら初めてサミュエル様の笑顔をみましたよ」 「サミュエル様は今までおっかないかただとばかり思ってましただ」 「ふふふ。今後はサムがこの地を守って行くからね。みんな安心してね」 「アルベルト様は天使みたいなかただ……」 「それ以上近づくな」 「ひぇっ……す、すみません。」 「あ、あの。サムは真面目なんだ。少し言葉がたりないけど本当は凄く優しいんだ……くしゃんっ」 「大丈夫か?」  サミュエルが自分の上着を脱いで僕の肩にさっとにかけてくれた。 「ありがとう。ちょっとくしゃみが出ただけだよ」  農家の方たちが唖然として見ている。わあなんか恥ずかしい。 「次に行くぞ」 「うん。また来ますね」  サミュエルが僕の腰を引き寄せる様に抱き寄せた。 「あのサミュエル様が?本当は優しい方だったのか……?」 「はい。僕はとても幸せ者です」  これでみんながサミュエルの事を見直してくれたらいいな。 「へ……さ、さようですか……。へっへへへ。こりゃ大したもんだ」 「んだんだ。仲のよろしいことで」  サミュエルの口の端がさきほどからぷるぷるしてる。喜んでいる? 「サム、どうかしたの?」 「…………なんでもない」 「次は果樹園を見に行くのでしょ?僕果物が好きだから嬉しいよ」 「好きなだけ食べていいぞ」 「ほんと?じゃあ城の皆にも持って帰ろう」

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