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第16話-2

 まったく。この伯爵は馬鹿もいいところだ。娘同様に思い込みが激しい。いや、この親にしてあの娘と言ったところか。普段から執務のほとんどはこの私がおこなっている。言わば飾りのような存在だ。自分の地位をあげて王都に行くことにしか興味がないような男。そろそろここを離れても良い頃だろうか?別にこの場所に興味があったわけではない。ただ単に傷心の傷を癒す場所を探していただけだった。  生涯かけて神と崇める存在の女性を失ってしまった。遠くから見つめるだけでよかったのだ。彼女の喜び幸せがこの私の喜びであり幸せだった。凛とした侯爵令嬢。気が強く剣術の腕もいい。立ち居振る舞いも毅然として見るものを奮い立たせる気品があった。そのうえ美貌の持ち主で愛情深くすべてが完璧だった。そう、彼女こそが我が理想!女神だ。世の中に善悪があれど、彼女の言葉は私とっては善であり絶対であった。 「このブルーノ。生涯かけてアレーニア様にお仕えいたします!」 「まあその気持ちはとても嬉しいわ。でもねブルーノ、私は爵位など気にせず自由に生きたいの。ごめんなさいね。ブルーノにもいつか素敵な人が現れますように」  天使のような微笑で私の前から姿を消してしまった。  我が身を一生をかけてお仕えすると決めたお方。だが彼女は身分など関係ないと貧乏子爵の元へと行ってしまったのだ。駆け落ちという形をとって。そしてその逃走を手伝った私も侯爵家から追われこの辺境地へと流れついたのだった。最初のうちは衣食住が取れれば何でもよいと住み込みの仕事を探していたのだが、ひょんなことから伯爵家で仕事をするようになった。そのうち思い込みが激しい息子を修正できる人材が欲しいと先代に頼み込まれ執事となったのだ。その先代も隠居され息子の代に変わられた。 「はあ、困ったものだ」  とにかくノワール様は思い付きで行動をするものだからどうしてもこちらに尻拭いが来る。先日も公爵家と同等になるのだからと領地の一部をわが物顔で使いだした。公爵家の領地の一部に別邸を建てるのだそうだ。そのために農家に農地を縮小しろと勝手な伝達をだしていた。公爵様の許可もなしでだ。すぐさま建設をやめさせた。設計の段階だったからまだよかったが。何をしだすのかがわからん。  それにサミュエル様は戻られたが婚約者を伴っているとも聞く。あくまで噂なのでどこまでが本当かわからぬが、では公爵家側としたらやはりアンジェリカ様を認める気はないのではないか?そもそも本当に許嫁なのだろうかと疑問ももってしまう。まあ側室という手もあるのだろうから。私には知った事ではないが。  とにかく、今後の事も兼ねて私もついて行った方がよさそうだ。

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