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第22話-1 伯爵の意地

 それまで好意的だった近隣の領主たちが急に手のひらをかえしたような扱いをしてきた。 「なんだというのだいったい。いつもなら手土産持って挨拶に来る頃なのに」  王都への往来にはノワール領を通る道順が最短だった。迂回する山道もあるが、かなり時間がかかる。そのため、ノワール領を通るのならと通行料がわりに資金や品物を渡すように交渉していた。だが、サミュエル領主がこの地に君臨することが決まったからにはそれは賄賂となるのではと皆が言い出したのだ。何故なら、本当はその道はノワール領ではないからだそうだ。今までは口約束や噂で自分の領だと言っていた地域が実はサミュエル領だったと判明したらしい。 「くそっ。信じられん!ほんのちょっとズレてるだけではないか。それぐらい我が領地と同じだろうが!」  あれからしばらくして王都から測量技師という奴らがやってきて吾輩の領地を細かく測量していったのだ。もちろん抗議はした。今までこの地は吾輩が治めていたのだから少しぐらい領地を広げても良いだろうと。 「何をおっしゃってるのですか?それを決めるのは貴方ではなく王や領主です」 「いや。だから吾輩が領主……の代理だったのだ」 「それが何か?現在は新領主がここを統治してるのですよ」 「はは。あんな青二才……」 「サミュエル侯爵は伯爵である貴方より格上です。自分の身分をわきまえなさったほうがよろしいかと」 「ぐぬぬぬ」  なんたることだ!これまでここを守っていたのは吾輩だぞ!吾輩の父上がこの地を敵から守ったのだ!すなわちそれは吾輩の手柄と同じではないか! 「そうだ、父上がもっと沢山褒美を要求していればよかったのに!」  父上は武芸には優れていたが野心のない人だった。母上はいつも吾輩に愚痴を言っていた。 「わたくし達はもっと贅沢な暮らしができるはずなのよ。なんせ伯爵なのですから。爵位は簡単に上げることが可能なの。だってあの人がちょっと敵と戦ったぐらいで爵位が上がったのだもの」  父上は吾輩も騎士に育てようとしたが母上がそれを止めた。我が子に危ない真似をさせたくないと。戦いなどといった野蛮な真似をしなくて済んだのは感謝するが、母上は小言が多すぎた。今は田舎の保有地で過ごしてもらっている。  父上はよほど領地経営が嫌だったのだろう。早々と有能な執事を見つけてきて自分は諸国へ剣術修行に出てしまった。今やどこにいるのかさえわからない。 「このまま吾輩が引き下がると思っているのだな。くそっ。そうだ、もう一度戦をおこせばいいのだ!」  そして武勲をあげればいいのだろう?父上に出来たことが吾輩に出来ないわけがない。そういえばサミュエルが作ろうとしている騎士団の支部とやらはまだ正式稼働していない。ならば叩くのは今か? 「今ならまだ王都からの支援も届いてはいない。ぐふふふ。立ち上がりから失敗すれば王都からの信頼も崩れ落ちるだろう。ぐははは。そこで吾輩が登場し敵をやっつければいいのだ」

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