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第23話-2

 馬を走らせるには充分な道のりだった。 「凄いね。ライナスって馬に乗れるんだね」 「へへ。おいら、荷馬車に荷物を積んで王都まで運んでるんで手綱さばきも上手なんすよ」  月に一度くらい。ノワールに頼まれて王都まで品物を運ぶのだそうだ。そこで決まった仲買人に荷物を渡し、帰りにまた別の荷物を受け取るのだそう。 「そう……なんだね」 「……やっぱり。良くない事だったんっすね?」 「ライナスは気づいてたの?」 「最初は別に言われるまま仕事をしていたのですが、仲買人が胡散臭い人で。でも伯爵様のいう事を誰も面と向かって逆らう事はできなかったんすよ」 「そうだったのか」 「でも!今は違いやす!アル様やサミュエル様がやめろと言われればすぐに辞めます!」 「ありがとう。ライナス」 「へい!今後はもし何か言ってきたらすぐにアル様にお知らせしやす!」  森に入るとライナスが良い場所があると言うので着いていくことにした。 「なんか水の匂いがする?」 「わかるんすか?凄いっすね。この先にあったかい池があるんすよ」 「あったかい池?」 「そうっす。動物たちがよくそこで集まってるんすよ」  それってもしや……。 「あれ?なんか……お化けがいる~!」 「ええ?」  ライナスが指さす方を見ると薄もやの中にボウっと人影が揺らいで見える。 「うっわああ。お助け下せえ。怖いよおお」 「待てライナス!あれってケガ人じゃないの?」 「へ?人間っすか?生きてるんすか?」  近寄ってみるとケガをした老兵が体半分を水の中に浸からせて浮かんでいた。助けなくっちゃ! 「大丈夫ですか!」  僕は慌ててざぶざぶと水の中に入っていく。あったかい。やはりここは温泉か? 「……ぁ?……だれだ?ふぁああ」  老兵は大きなあくびをした。 「ほへ?まさかこんなところで寝てたとか言わないでしょうね?」 「ん~。そのまさかだ。気持ちがよくって寝てしまってたわい」 「アル様ぁ!平気っすか?」 「ああ。ライナス。ちゃんと生きてたよ」 「なんだその生きてたというのは?」 「もお!こんなところに浮かんで寝てるからお化けかと思ったのですよ!」 「がはははは!それはすまなかった!」  なんだかどこかで聞いたような笑い方だな? 「ケガをされているのですね」 「たいしたことはないのだが、ここの温泉は傷によく効くのでな。浸かっておったのじゃ」 「よければ僕のところでケガの手当てをさせてもらえませんか?」 「いや……それは……」 「だめっすよ。夜になるとここは熊や狼も来るっすよ。血の匂いさせてちゃ食われるっす」 「ええ?そうなの?じゃあ無理でも運んでいこう!」 「お、おいちょっと……」 「僕はアルベルトと言います。ここの領主の……」 「婚約者さまですだ!」 「領主というと新しく統治されたという?」  あれ?顔つきが変わった。この人ひょっとして|新領主《サミュエル》に会いに来たのかな? 「ええ。我らが城においで下さいますか?」 「……同行させていただこう」

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