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第3話
義母の罰を想像しただけでフウルは恐ろしさに気を失いそうになった。
三歳のときには、雪が降る中庭に長時間裸足で立たされた。
五歳のときには理由もなく長い階段をなんどもなんども上り下りさせられ、両足が腫れて歩けなくなった⋯⋯。
食事すらもらえない日も多く、そんなときは、亡くなった実母のことを思い出して、「おかちゃま⋯⋯」と呼びながら、寒さとひもじさに泣いた⋯⋯。
「フウル、深く反省するのですよ——」
「はい⋯⋯」
フウルが雨の中に立っているあいだ、天幕の中ではお茶会が賑やかに進んでいく。
しばらくすると、誰かが天幕の中から出てきた。
黒髪の長身の青年で、下僕たちが差し出す大きなアンブレラ(傘)の下に守られながら立っている。
義弟のヘンリーだった。母親のエリザベート王妃によく似た派手な顔立ちをしている。
「僕の代わりにラドリア国に行ってくださるなんて、なんてお優しいのでしょう。ラドリア国のリオ・ナバ国王はとても醜くて残酷なアルファ王だという評判ですけど、でも大丈夫ですよ、義兄上とはお似合いです! どうぞお幸せに! ささやかですが、祝いのケーキを作らせました。さあ、お召し上がりください、義兄上!」
にっこり笑ってケーキを差し出してきた。ケーキは毒々しい赤い色のクリームで飾られている。
「祝いのケーキ?」
戸惑いながらフウルは受け取った。雨がポタポタとケーキの上にも落ちてくる。
「さあ、お食べください!」
義弟は満面の笑みでしつこく食べろと言った。
押し切られるようなかたちで、一口食べた。義弟のヘンリーは昔からひどい悪戯を仕掛けてくるのだ。今度もそうじゃないかと思うと怖かった。
だけど⋯⋯。
——あ、美味しい!
ケーキはとても甘くてとろけるような美味しい味だった。
——弟の親切を疑うなんて僕はダメな兄だ。
自分を叱りながらもう一口食べた。
すると——!
「ウッ!」
ものすごい刺激が口の中に広がった。舌がピリピリして焼けそうだった。慌てて吐き出したけど咳が止まらない!
「ゴホゴホッ⋯⋯」
大きな目が涙でいっぱいになる。苦しくて息もできない——。
「へ、ヘンリー⋯⋯、このケーキ⋯⋯」
「どうしました、義兄上? せっかく僕が作らせたケーキなのに、お口に合わなかったとは残念だなあ!」
ヘンリーが大きく笑った。アンブレラを差し掛けている従者たちもクスクスと笑った。
そのとき、空がみるみる明るくなり始めた。
ヘンリーの笑い声に合わせるように黒い雨雲が消え去っていく。中庭にふたたび明るい日差しが戻ってくる。
これがヘンリーが持っている『ギフト』の力だ。
農作物に欠かせない太陽を呼び込むこの能力は素晴らしく、他国も欲しがる素晴らしい『ギフト』の力なのだ。
「さすがでございます、我らが晴れ王子!」
「ヘンリー様、万歳!」
「万歳!」
「ヘンリーさまの『ギフト』こそ、我が国の宝だ!」
人々の声を聞きながら、フウルは青く晴れ渡った空を見上げた。
木々に残った雨粒が日差しにキラキラと光っている。
まるで義弟が持っている『ギフト』を象徴しているかのような美しい光景だった。
——きっとラドリア国の人たちもこのヘンリーの能力を欲しがっているんだ、それなのに雨降り王子の僕が、偽者として嫁ぐなんて、そんなことが許されるはずがない、どうしよう⋯⋯。どうしよう⋯⋯。
続く
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