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第1話

「あっああ・・・」 由の喘ぎ声が、いつものラブホの部屋に響いた。 疼いていた後ろに、いつもの硬いモノが抜き差しされて、 由は満たされた。 「ここがいいの?小田島さん」 そう言って目黒 翼(22)は、グイッっと由の片足を上げてもっと奥に打ち付ける。 「あんっ」 高揚して頭が回らない由h。 「ああ・・・気持ちいい、やっ今乳首はぁ、だめぇ」 普段大人しい由の乱れた姿に興奮しながら、 「ほんっと、あんたって可愛いな」 小さくつぶやいて、腰を早く動かし始める。 「あっやぁっ、いっちゃうからぁ!」 と叫んで、ビクビクッとイッてしまい、 そのまま翼も由の中で果てる。 肩で荒い息を吐いて、ベッドに横たわる。 これが最近の2人のナイトルーティーン。 きっかけは些細な事だった。 「ねえ、どうしたらいいと思うー?」 小田島 由(24)は近くの人気のないカフェで遅い昼食を食べながら、向いに座る親友で同じ会社の源 裕太(24)に相談していた。 源は呆れながら、いつもの事と言わんばかりに溜息を吐いて、 「お前振られたの、今年何度目だよ?」 「2度目・・・」 テーブルに突っ伏してシクシクと泣き言を言う由。 「だいたい性欲が強くて振られるなんて聞いたこと無いぞ」 「だって・・・」 誰と付き合っても満たされなくて、マッチングアプリなどを利用し用としたけど怖くて止めたし。 「裕太がゲイだったらなぁ。カッコいいし」 「ちょ、既婚者に何いってんだ馬鹿」 などという冗談を言いながら、 2人はカフェを後にした。 その日の帰り、 「小田島主任」 1時間程残業して、目処がついて由が帰る支度をしていると、 後ろから声かけてきたのは入社して1年目の目黒 翼だった。 スラッとしたスタイルに細身のスーツがよく似合っている。 でも、シャツの上からでも分かる程よい筋肉がある。 いい男だった。 仕事でも入社1年目で営業成績はずば抜けていた。 「おつかれ目黒。まだ残ってたのか」 「ええ、まあ」 目黒はじっと由を見つめてくる。 「・・・?」 由は疑問符を浮かべながら、笑顔で彼を見上げる。 しばらく間が空き、 「主任、飯行きませんか?」 「おお、そうだな行くか」 2人は近所の居酒屋に行く。 2人で飲みに行くのは初めてだった。 座敷の向かいに座り、ネクタイを緩める目黒の仕草に由はドキッとする。 (イケメンは何をしてもカッコいいな) などと見とれていると、目黒はふっと笑い、 「あんまり見つめないでもらえます?照れるんで」 と、照れる様子もなく冷静な顔で言ってくる。 「いや悪い、目黒ってホントイケメンだよな」 「ふっ、それはどうも」 今度は少しだけ照れたように見えたが、すぐにいつもの平然としている目黒に戻る。 それなりに食事をし、居酒屋を出る。 「主任、ごちそうさまでした」 「いいよ」 久しぶりに人と話して由は楽しい気分になり、少しだけ弱い酒を飲んだ。 フラつく由の肩を目黒はガシッと掴む。 「酔いました?」 優しいその声が、酒で酔った由の耳に心地よく響く。 自分より大きな手で肩を掴まれ、ドキドキが止まらない。 「よ・・・ったかも」 声を絞るようにして、目黒を見上げる。 目黒は黙って由をホテルに引っ張った。 そこはラブホテルだった。 抱きかかえられて無理やり連れて来られて、 「うわっ」 どさっとベッドに投げられる。 「何だよっ」 講義をしようとすると、 目黒はネクタイを外しながら、 「昼間、カフェで源主任と話してたでしょ。セックスする相手が欲しいって」 「えっ・・・」 それを聞いて由は青ざめる。 (まさか、あんな話を聞いていたなんて・・・) 「だめですよ、外であんな話をするなんて、 ・・・・・・悪いやつに聞かれちゃいますよ」 そう言って、ベッドに投げ出された由の顎をくいっと上げる。 「俺が相手しましょうか?小田島さん」 そういいながら目黒は自分のシャツのボタンを外していく。 つやつやで絞まった肌が顕になり、由は彼の素肌に釘付けになる。 目黒はそのまま由の股間を足でスリスリと押し付ける。 「あっ」 思わず声を上げる由。 その声に嬉しそうに目黒は、 「拒否しないならそのまま抱くけど」 と、無抵抗の由にキスをする。 完全に身を任せ、その日初めて目黒と一夜をともにする。 それ以来、目黒は由の性欲発散に付き合ってくれている。 夕食を食べに行った流れで、そのままラブホに向い事を済ませ、 夜中タクシーで帰る。 あくまで恋人ではないため、朝までいることはない。 そう、別にお互い好きでなはい。 ただ身体の相性は良くて今のところ他の相手を探す気にはなれなかった。 いつものホテルで2回した後、2人はホテルを出た。 時間は深夜1時。 身体が満たされて由はお腹が鳴った自分のお腹を擦った。 「そういえば、今日昼食べてなかった」 「じゃあラーメンでも食べて帰ります?」 「おー、たまにはいいか」 と言って、2人は目黒が知っている深夜5時までやっているラーメン屋に行った。 個人で経営しているおしゃれなラーメン屋だった。 こじんまりした店内は落ち着いていて、過ごしやすい。 「いい店だな」 「はい」 「いただきます」 洋風の出汁が効いている細身の麺が美味い。 「美味いな」 「ありがとうございます」 自然と美味いと口に出てしまった由に店主が声かけた。 「今日は来ていただいてありがとうございます。店主の目黒 洋一です」 「どうも・・・目黒?」 名字が目の前の目黒と同じだ。 すると、一緒に来た目黒が、 「俺の兄です」 「あ、そうなんだ」 どうりで雰囲気が似ている。イケメンの兄はイケメンだな。 「いつも弟がお世話になっています。上司さんですよね?」 「小田島 由といいます。目黒くんにはいつも助けられています」 「こいつは頭はいいけど調子乗りの所もあるので、叱ってやってくださいね」 「余計なこというなよ」 少しばかり照れて目黒は口を挟む。 初めて見る目黒の反応に、由はクスクスと笑う。 その楽しそうな由を見て、少しだけ嬉しそうにする目黒。 そんな2人を見つめ、 「いやー、翼の相手がまさかこんな素敵な方で、兄としてほっとしていますよ〜」 「はあ・・・え?」 「それがね・・・」 「兄貴!」 疑問符を浮かべる由の横から、兄の言葉を遮る目黒。 「もういいから!」 目黒はめずらしく慌てていた。 その後、一緒にラーメンを食べ店を出た。 「美味しかったな」 「はい、気に入ってもらえましたか?」 「最高だった」 「・・・良かった。また行きましょう」 「おう」 それぞれ家に帰っていった。 数日後、 「最近機嫌いいな、由」 会社の近くのいつものカフェで、裕太とランチを食べていると、 ふいに裕太が由に声かけた。 「まあね」 「恋人出来たの?」 「出来てない」 「じゃあたまってんの?」 「それはない」 「?セフレってこと?」 「う〜ん・・・」 セフレの言葉に、由は考え込んだ。 その反応に裕太は、 「違うのかよ?」 「まあ、しいていうならそうなのかも」 「何だよ強いて言うならって」 はっきりしない由に、裕太は促す。 「俺の性欲発散に付き合ってくれているだけだから、セフレとは違うんじゃないかな?」 「でも、セックスはしてるんだろ?」 「まあ」 あっさり返事する由に、 裕太は、じっと真面目に由を見て、 「偏見を無しにいうけど、男はそう簡単に男を抱けないよ。人によると思うけど」 「そう?」 「お前だって、女を抱けないだろ?まあ例外はあると思うけどな」 「なるほど」 妙に納得してしまった。 しかし、そうなると・・・ 目黒は実は男が好きなんだろうか・・・? その日の夜、 由はいつものように目黒とホテルに向かっていた。 「今日は泊まっていきませんか?」 「え」 「明日休みだし、夜中に帰るのめんどくさいし」 「まあ、そうだな」 確かにいつも終わった後帰るの面倒だったしな。 考えれば、泊まることは初めてだった。 いつもするだけに集まっていたし。 コンビニ寄って、 酒とつまみを買い込んで、いつもよりちょっと豪華なラブホに入った。 何だか、気のせいか目黒が機嫌がいい。 こないだラーメン屋に行った時くらいからかな? 数本のビールを開けた後、 「目黒ってお兄さんと兄弟2人?」 「4人」 「え、4人!?」 驚く声を上げる由のリアクションに、目黒はふっと笑い、 「こないだの兄貴は長男で、その下にもう一人兄がいて、俺の下に妹が1人います」 「兄弟多いイメージないな」 「でしょ?一人っ子みたいだってよく言われます」 目黒の言葉に由は苦笑しながら、 「でも確かに弟っぽさと、兄さんっぽさあるかも」 「ふっ、どっちですか」 ビールを片手に笑う目黒が、やけに可愛く見えた。 由は目黒の肩に手を置いて、 チュッとキスをした。 それに意外にも驚いた顔をする目黒。 少しだけ赤い顔は酒のせいなのか分からないが、目黒はふいっと視線をはずし、 「今、キスするタイミングでした?」 「何か、したいと思った」 そういって目黒の手にあるビール缶を奪い、由が一気に飲み干し、 そのまま目黒にキスをする。 由の口の中のビールの味を感じながら、舌を動かしていく。 目黒はキスをしたまま、由の身体をぐいっと引き寄せ、 「もう抱いていいの?」 「ん」 ベッドに移動して、由はキスをしたまま目黒の首に腕を絡ませた。 目黒は積極的な由のことを可愛く感じ、彼の背中からお尻へと撫でていく。 「っあ・・」 身体を撫でられて気持ちよくて由は思わず声を漏らす。 お互いの硬くなった股間を押し付け会い、 「もう・・・触って」 「おねだりなんて、ずるいな」 目黒はキスをしながら、由のシャツをまくりあげ、直接肌を撫でられる。 そのまま乳首をクリクリと指でもてあそばれる。 「んっ、はあ・・・」 よがる由を堪能しながら、目黒は彼のパンツに手を入れていく。 やわらかい由のお尻を撫でながら、お尻に指を挿れていく。 ズププ・・ 「っ・・」 声を我慢する由。 その口に強引にキスをする目黒。 「声、抑えんなよ」 そう由の耳元で囁いてうつ伏せになっている由の後ろのゆっくりと、自分の硬いモノを挿入していく。 「あぅっああ」 腰を揺り動かされて、良い所に何度も当たって由はすぐにイッてしまう。 それを見て、 「早いね」 言いながら身体をもっとくっつける。 ぐっと根本まで挿れられ、由はまた気持ちよくなる。 「ん、もっと欲しい」 「おおせのままに」 目黒は彼の手にキスをして、指を絡ませて繋ぐ。 「ん・・・」 由はゆっくり目を覚ました。 外は暗い。ホテルの時計を見るとまだ3時。 3回シて眠りについてそう時間は経っていない。 こんなに満たされるのは、今まで知らない。 恋人ができても、 いつも自分が物足りなくてしつこいって嫌われる。 呆れられる。 でも目黒は違う。 どんなに欲しがっても答えてくれる。 良い所を触ってくれるし、当ててくれる。 自分を肯定してくれる存在になってしまった。 でも恋人じゃない。 お互い、恋愛感情はない。 もしかしたら、自分は恋愛感情なんてよく分かってないのかもしれない。 普通の男は、男は抱けない。 裕太の言葉を頭の中で繰り返していた。 目黒はどう思って俺を抱いているんだろう・・・? 例外だのだろうか? 由はそこまでで考えるのを止めた。 翌朝5時、 目黒は目を覚ましていた。 由と朝までいたのは初めてだった。 実を言うと、断られる覚悟で泊まることを提案した。 自分たちは所詮セフレのような関係でしか無い。 でも断られなかった。 入社した時から、 由の事が気になっていた。 不思議だった。 自分は今まで女性としか付き合ったことがなかったし、 自分はゲイではない。 なのに、 初めて会社で由と出会った瞬間、 初めての感情が湧き上がった。 誰と付き合っても、 自分が夢中になることはなかったのに。 相手が付き合いたいと言って、 結局顔だけ好きなやつばかりだった。 でも、由といると満たされた。 必要とされている。 それが嬉しかったし、 由を可愛いと思ってしまったから。 でも隠さなくては。 由は自分を性欲発散の相手としか思っていない。 この気持ちを絶対、 知られるな。 今まで通り一緒の時間を持つために。 隣に眠る由の安らかな寝顔を見つめながら、 「ほんと・・・可愛い」 小さく呟いて、由の頭をそっと撫でた。 シャー・・・ 目黒が起きてシャワーを浴びに言っている間、 由は呆然としていた。 さっきの言葉はなんだ・・・? 『ほんと・・・可愛い』 そう言って自分の頭を撫でた。 その時由は意識はあったが、目は閉じていた。 つまり寝たふりをした。 あの言葉の直前で目を覚ましてどう反応して良いのかわからかった。 確かに、目黒は時々最中に可愛いと言うことがあった。 由は目黒はその言葉はスる時に、 由が言って欲しい言葉をわざと盛り上げるために言っているのだと思っていた。 しかし、 さっきは明らかに由が眠っている時に言っていた。 それって、狙って言ってないよな? 「???」 由は混乱していた。 その日から、小さいことに気が付き始めた。 会社でもよく目が合ったし、 大量の資料を資料室から運んでいると、 「半分持ちますよ」 といって手伝ってくれた。 企画書で煮詰まっていると、 「お疲れ様です。良かったらどうぞ」 と、コーヒーをくれたり、 「あ、ありがとう悪いな」 「自分の買ってきたついでです」 とさりげなく気を使ってくれたり、 まるで、自分の事をよく見ていた。 ホテルに行っても、忙しかった日は、 「今日どうします?」 必ず聞いてくれたし、由が行くというと、 必ず優しかった。 それがまた心地よかった。 それがもし恋人だったら、 もっと甘くなるのか、知りたい。 人生で初めてそう思った。 由には『好き』という気持ちが分からなかった。 生まれた時から両親はいなかった。 祖母に育てられたが、5歳の時に亡くなった。 それ以降は施設に引き取られ、 高校卒業して就職をして一人暮らしをした。 学生時代も社会人になってからも人に告白されたことはあったけど、 好きという感情がわからなかった。 誰とつきあっても。 でも、身体だけは人のぬくもりを求めていて、 性的な関係はいつも続かなくて。 でも、目黒は違った。 脅しているわけでもなく、 無理やりするわけでもなく、 ただ、一緒に居てくれた。 いつも、心も身体も満たされて。 この気持ちをなんと言うんだろう? 数日後、 「小田島ー」 オフィスの入口から顔を出したのは、下の部署の主任である裕太だった。 「おう、おつかれ」 気が付いて由は手を挙げる。 「来週だけ、こっちの企画で目黒借りたいんだけど、いい?」 「え?俺ですか」 近くの席で聞いていた目黒が口を挟む。 裕太は、うなずき、 「お前が前々からやりたかった企画だし、勉強になると思って」 由は、目黒を見て、 「どうする?」 「ぜひやりたいです!」 珍しく目を輝かせて返事した。それに嬉しくなって由は、 「じゃあよろしく」 「はい!」 こうして、目黒はしばらく裕太の下に付くことになった。 その日の帰り、 「目黒が前からやりたかった企画だよな。頑張れよ」 並んで会社から帰る道すがら、由は軽めに目黒を励ました。 「はい」 いつもクールな目黒がワクワクした顔をしていた。 こういう風に見ると、年下感があるなと由は内心笑った。 目黒は由をじっと見て、 「俺が居ないからってさみしいかも知れないけど、我慢してくださいね」 といって、彼の頭を撫でる。その手を由は振り払い、 「ばか、お前は仕事に集中しろよ」 「はい」 ふふっと笑う目黒。 次の週から、 目黒は隣の裕太の部署に手伝いに行ったっきり、 自分の部署には戻ってこない。 ふと、昼食時に隣の部署の仲間と楽しそうに食事に向かう目黒の姿を見かけ、いつのまにか目で追っていた。 夜のルーティンがなくなって3日。 由の性欲が限界を迎えていた。 「大丈夫か?」 いつものように、外のカフェで裕太とランチを食べている時に そう聞かれ、 「・・・そうだな」 「最近どうした?」 「ちょっと・・・たまってて」 「え、でも最近発散できてたって」 「相手が忙しくてかまってもらえない」 「いつから?」 「3日前」 「ええ・・・」 (ん?3日前?) 裕太はしばらく考え込んで、ハッとする。 「由、もしかしてお前の相手って」 「ごめん、もう行くわ」 そう言って、由はカフェを後にする。 「あ、おい!」 それを呆然と見送る裕太。 寂しそうな後ろ姿を見送り、 「・・・マジか」 1人つぶやいて、裕太は頭を掻く。 由はぼうっとしたまま、もくもくと仕事をこなし、 数日が過ぎた。 ある人気のない資料室、 由は調べ物をしていた。 「小田島さん」 ふと、声掛けられて振り返ると、 目黒がいた。 彼も何か調べ物をしていたようだ。 「久しぶりですね」 そうつぶやく、目黒の顔をじっと見上げる。 「おお」 短く返事をする由。 久しぶりに目黒の綺麗な顔を見たな。そう思ってじっと見つめる。 目黒はぼうっとする由を逆に心配していた。 「大丈夫ですか?ぼうっとして」 と、目黒が至近距離に近づいてきてきて、由の顔を撫でる。 由はふとその手を取り、 自分の口元にくっつけ、目を閉じる。 彼の匂いをスーッと嗅いで、 「・・・目黒の匂い、久しぶりだ」 そのしぐさに目黒はドキッとする。 由は目黒の首筋に顔をピトッとくっつけ、 彼の匂いを嗅いだ。 毎晩、この匂いに抱かれて満たされて事を思い出す。 ただ気持ちいいだけじゃない。 彼の匂いが好きだ。 たまらない。 そんな、由の行動に、 目黒はドキッとする。 「お、小田島さん・・・?」 それに静か時我に帰る由。 「悪い、いくわ」 それだけ言って、その場を去る由。 その彼の後姿を見送り、 「なにそれ・・・」 たまらなくなった目黒だけが残された。 目黒が隣の部署に借り出されてから、一週間。 その日の夜。 目黒は自分のオフィスに久しぶりに顔を出した。 薄暗いオフィスの中で、 由が1人残業をしていた。 「小田島さん」 名前を呼ばれ、由はぼうっと顔を上げる。 目黒だった。 「おお、お疲れ」 「今日で隣の応援終わりました」 「そうか」 それだけ返事して、由は帰る支度をする。 そんな彼を見ながら、 「一緒に帰りませんか?」 「いい」 それだけ言って、由は1人帰っていった。 ぽつんと目黒だけが残された、 「あいつそうとうやばいぞ」 目黒の後ろから声かける裕太。 「源主任」 「お前だろ?あいつの夜の相手って」 「え、あの」 「いいよ、事実はどうでも。それよりもあんな由見たの初めてだったから。仕事はしてるけど、お前がいなくなってから、ずっとぼうーっとしてるんだ。多分無意識だろうけど」 「そう、ですか」 「どうにかしてやってくれ」 そういって目黒の肩をぽんっと叩いて、裕太は帰っていく。 由は、しばらく前に目黒に連れて来られたラーメン屋を1人訪れた。 ガラッ 「いらっしゃい」 店主は優しい笑顔で由を迎えた。 「こんばんわ」 由は会釈をしてカウンターに腰掛けた。 「翼の上司さんじゃないですか。今日は1人ですか?」 「ええ、まあ」 といって、由はメニューを見つめた。 ここの店主は目黒の兄が経営していた。 たしかに店主は目黒と雰囲気が似ていた。 「おまたせしました。塩ラーメンです」 注文したラーメンを由に渡す店主。 由はラーメンを受け取って、さっそく食べ始める。 「おいしい」 素直に感想を述べた、 暖かくて、まるで心の隙間を埋めるようだ。 心の隙間・・・ 本当に足りないのは、目黒だ。 由はとっくに気が付いていた。 今、自分がボウっとしてるのも自覚がある。 でも、その感情が何なのか、 自分自身でもはっきりしない。 由は黙々とラーメンを食べていると、 「でも翼の心に決めた人が、こんな素敵な上司さんで本当に良かった」 「はあ・・・は?」 一瞬、店主の言葉をスルーしようとしたが、 由は、思わず聞き返す。 すると店主はニコニコしながら、 「弟にイイ人いないのかって前に聞いたら、店に連れてった人だからって」 「・・・・・・・・・え!?」 自分でもびっくりするくらい、驚いた声を上げた。 この間言いかけたのはその話だったのか。 じゃあ何で俺を連れてきた? ??? 疑問符ばかりが浮かぶが、 「・・・今まで誰かを連れてきたことは?」 「えー?ないよ。上司さんが、初めてかな」 「・・・」 ?? どういうことだ? これじゃまるで、目黒が俺のこと、 ガラッ 勢いよく店の扉が開く。 「いらっしゃい」 肩で荒い息をつき入ってきたのは、 なぜか焦った顔をした目黒だった。 カウンターに由を見つけ、ギクッとする。 目黒は自分の兄である店主を睨んで、 「言ったのか?」 「ん?」 「話したのか?小田島さんに」 「えー、何を?」 とぼける店主に、ぐぬぬと顔をしかめる目黒。 すると、今度は由の方を見る、 由はフイッとカウンターに振り返り、急いで残りのラーメンをすする。 「ごちそうさまでした」 「どうも」 由はお代金をタウンターに置いて、 「じゃあ」 急いで店を出た。 目黒はじとっと兄を見て、 「・・・何で言うんだよ」 「あら?まだ付き合ってないのかよ?」 「まだだよ」 と、頭を押さえた、 今まで気持ちを知られないようにしてたのに・・・ 「追いかければ」 「言われなくても!」 目黒は急いで由を追いかけて店を飛び出した。 「小田島さん!」 いつもより慌てた様子で、由を引き止める目黒。 手を掴まれてようやく動きを止める由。 由は目黒の方を振り向かない。 「あの、小田島さん・・・兄貴に聞いたんですよね」 「・・・何が」 「あの店に連れてった人が、俺の心に決めた人だって」 「・・・・・」 「答えて」 「聞いてない」 「じゃあ何で帰るの?」 「ラーメン、食べたから」 「・・・聞いたんでしょ?」 その言葉に、由は俯いて頷いた。 目黒は、自分の心臓が早くなるのを感じながら、 「じゃあ、俺の気持ちも分かったんでしょ?」 「・・・・」 由は黙った。 (目黒は、俺のことが好きだった・・・?) そんなこと、ありえない。 「俺、小田島さんの事・・・」 目黒がそう言い掛けると、 由はバッと目黒に掴まれていた腕を放し、 「帰る!」 全力で走っていった。 「ち、ちょっと‼!」 由の行動にびっくりして全力で声を掛けることしか出来なかった。 家に帰って、由は服のままベッドに潜り込んだ。 今の状況が信じられない。 混乱していた。 今まで知らない感情が由の胸の中をいっぱいになる。 ブーッブーッ スマホのバイブが鳴る。 画面を見ると、目黒だった。 次にラインの通知が来る。 『今、小田島さんの家の前にいる』 『話したい』 『開けて』 それをただ見つめ、由は布団をかぶる。 3度ほどスマホの着信が鳴って。 ようやく止まる。 しんとした玄関。 やはり会ってはくれないのか。 目黒はしばらく粘ったが、 ため息を吐いて、 帰ろうとすると・・・ ガチャッ 由はドアを開けた。 「小田島さん・・・」 「入って」 目は合わせずに、由は目黒を家に入れた。 「ごめん」 謝る目黒。 何に? と問いかけようとしたが、 「ほんとは入社した時から、好きだった」 彼らしくない、 絞り出すかのように目黒は話し出す。 「誰にも触れさせたくない。アンタの事」 ようやく由は目黒を見つめた。 その顔を見て、目黒は胸が高鳴った。 由は照れた顔をしていたから。 そんな顔を見せてくれたのは初めてだった。 目黒は遠慮がちにそっと由に、 キスをした。 由も抵抗せずそれを受け入れた。 不思議と触れた肌が痺れる感覚が湧き上がる。 「一週間以上我慢したんだからご褒美くれよ」 「っ!アンタって人は」 由のおねだりに目黒は顔を赤くして、 「知らないぞ、そんな可愛いこと言って」 目黒は由を玄関でキスしながら脱がしていく。 脱がせて顕になった由の首筋にキスしながら乳首をイジる。 「っあ、いやぁ・・」 その度にビクビクと反応する。 「あぁん」 ビクビクッ・・・ 今まで触ってなかったから事もあり、挿入してすぐに二人共イッてしまう。 すぐにゴムを付け替えて、目黒はすぐに由に再び挿入していく。 「あっぁっあ」 腰を揺り動かすたびに、由は気持ちよくて喘ぎ声が止まらない。 「もっと」 「知らねえぞ、そんな煽って」 由のおねだりに目黒は、彼をじっと見つめる。 その視線にドキッとする由。 まだ中に入ったままだ。 目黒は由の腕を羽交い締めにしてそのままゆっくりと、 奥まで挿入しグリグリと押し付ける。そしてそのままゆっくりと抜き始め、 浅い所でピタリと止まる。 目黒はじっと視線をはずさず、その視線をそのまま由の身体に走らせる。 鎖骨に、張りのある胸にピンッと立った乳首に、うっすらと筋のある腹筋。 意外に細い腰回り。 そしてもう何度もイッて精液でぐちゃぐちゃなのに、まだ勃っている由。 全身を撫でられているように見つめられ、先っぽがピクピクと反応している。その自分の反応に由は恥ずかしくなってきた。 「あっ、あんまり見るな・・・」 そう言っている由の顔は嫌がってるようには見えない。 照れているが、ずっと腰は動いている。 「無理に決まってんだろ」 言い切って目黒は由の腰の下に枕を挟んで、彼の足を持ち上げもっと奥まで挿れてやる。 「んあぁっ、そんな奥までぇ・・・あっあぅ」 「はあ・・・好き」 息遣いと共に溢れる目黒の気持ち。 その度に由はたまらない気持ちになる。 その想いが、自分だけに向けられていると思うと胸がいっぱいになる。 これがきっと、好きな気持ちなんだ。 その夜は、目黒に一晩中甘やかされたのだった。 「へえ、じゃあ付き合うことになったの?」 あらかた話を聞いた裕太は、由にそう訪ねた。 しかし、由はうーんと唸った。 「確かにあいつの告白は受けたんだけど・・・」 「?うん」 「俺からはまだ、好きだって言ってないんだよね」 その由の言葉に、裕太は怪訝な顔を見せ、 「はあ?」 信じられないという裕太の講義に似た言葉に、由は一瞬たじろぐ。 「付き合ってないなら、今までの関係と何が変わったんだよ?」 「・・・気持ち・・・が、違う・・・?」 そのあいまいな由の言葉に、裕太ははあっとため息を吐き、 「なんか・・・俺、目黒に同情するわ・・・」 「うっ・・・」 言い訳も浮かばず、由は下を向いた。 確かにお互いの心は通じ合ったと思う。 目黒も好きだと事あるごとに伝えてくれるし、そのおかげか夜も今までよりも気持ちいい。 甘やかされて、とろとろになって、これ以上ないくらい満たされた。 ほんとうは、好きだって言いたい。 目黒を甘やかしたい。 もっと、求めて欲しい。 でも、いざ本人を前にすると、 言えない。 照れもあるが、 勇気がない。 自分の気持ちが、大きすぎて・・・ 重すぎるのではないかと思ってしまう。 それにいざ目黒が他の人を好きになった時に、 自分から離れることが出来るし・・・ 恋人になってしまったら、 別れる時がつらい。 なんて色々考え、 好きだと言えないまま数日が経っていた。 そんなある日、 由は、再び目黒の兄が経営しているラーメン屋さんに連れて行ってもらった。 「いやー、また来てくれたんですねぇ」 目黒の兄である店主は、嬉しそうにニコニコしてそう言った。 2人はカウンターに腰掛け、由はお気に入りの塩ラーメンと目黒は豚骨みそラーメンをそれぞれ啜る。 「あれからどうしたかなって心配してたから」 あっけらかんと笑う店主。 「ははっ」 と軽く笑い由はちらりと横に座る目黒を見ると、目黒も由をみていてバチッと視線が合う。 お互いが照れてすぐに目をそらす。 その光景を見守り、店主は自分の弟である目黒に視線を写し、 「それにしてもいつもクール振ってる翼が、あんなに必死になっているのは初めて見たな〜」 その言葉に目黒は飲んでいた水をブッと吹く。 「いうなよ!」 「よっぽど好きなんだなぁ」 店主の悪びれない言葉に、目黒はいつものクール振っている態度とは違い少しだけ照れた表情を見せ、 「うるさいなっ、好きなんだから仕方ないだろ・・・」 照れながらも、はっきり言う目黒に由にはグッと来ていた。 目黒からすればやっと、好きな人に自分の気持ちが通じて嬉しいという気持ちだろう。 「上司さんも、困りますよねぇ」 笑いながら言う店主。焦る目黒。 由はそんな2人を見比べながら、 「別に・・・俺も好きだし」 ぼそっと漏らすように呟く由。 その言葉にヒュ〜ッと口笛を吹き肩をすくめてカウンターの奥に入っていく店主。 由はちらっと目黒を見た。彼は真っ赤になって完全に硬直していた。 「・・・何その反応」 「だ、だって由さんの口から『好き』って聞くの初めてだったから、その」 目黒は手で顔を押さえて、 「嬉しくて・・・」 そんな目黒の反応が、何故か可愛く見えてくる。 これが好きだって事なんだな。 今まで由にとっては分かっていなかった感覚が、目黒のお陰でどんどん分かってきた。 ラーメンを食べ終え水を飲んでから、 「でも」 間をおいて、 「出来れば二人きりの時に聞きたかったです」 「え」 「ここじゃ、キスできないし」 「・・・それは、ごめん」 照れながらも、笑って返事した。 「じゃあ、帰ってから、な」 「・・・くっ、可愛すぎ」 目黒はまた、たまらずボソッと呟いた。 その帰りに由の家に行って朝まで抱かれたのは言うまでもない。 それが彼らのナイトルーティン。 終。

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