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かっこよくて優しい人
<side智己>
目の前で着替えられるのがなんとなく恥ずかしい気がして、洗濯物を干すからと言ってその場を離れた。
でも、どうしてだろう?
昨日はお風呂だって自分から手伝おうとしたくせに。
いや、あれは怪我をしたばかりで大変そうだったからだろう。
うん、そうだ。そうに決まってる。
そう自分に言い聞かせながら、洗濯物を干していると見慣れない服を見つけた。
――っ、これって……。
クリスさんの下着だ……。
今朝、自分で洗ってたやつ。
ボクサーパンツを履いている僕と違って、クリスさんのは、ブリーフっぽい。
しかも股間の辺りがもっこりと大きくゆとりがあって、ここに収まるってことは……。
相当大きいんじゃない?
それに比べて僕のは……。
いや、比べるのはやめとこう。
そもそも体格だって全然違うし、外国人って大きいって聞くし。
異世界だって外国みたいなもんでしょ。
それにしてもなんだか人の下着を干すってドキドキするな。
なんでだろう。
クリスさんの下着の横に自分の下着を干すのも変な感じだったけど、一緒に並んでいるのを見てなんとなく嬉しい気もして、自分で自分の気持ちがわからない。
わぁーっ、もうっ!!
なんなんだ?
何にもわからなくなってきた。
落ち着こう、落ち着くんだ。
自分に言い聞かせて残りの洗濯物を干していると、
「トモキ、着替えてみたがサイズはぴったりなようだ」
とクリスさんの声が聞こえてきた。
振り返ると、そこには僕の買ってきた安いシャツとデニムをモデルのようにカッコよく着こなしたクリスさんの姿があった。
「――っ!!!」
な、に……?
このすっごくかっこいい人は……。
両方で2000円もしない安物なのに……なんでこんなに輝いて見えるんだろう。
あまりにもカッコ良すぎて目が離せないでいると、
「どうした? トモキ、どこか着方が間違えているなら教えてくれ」
と不安げに言われてしまった。
「あ、ああ。ちがうんです。すごく似合っていたから、その……びっくりしちゃってっ!!」
「えっ?」
「あ、えっと。いや、なんでもないです。大丈夫です」
「? それならいいが、ああ、干すのを手伝おう」
「ええっ? いえ、大丈夫です。も、もう終わりますからっ!」
なんだかこんなかっこいいクリスさんに僕の古ぼけた靴下なんか干させるわけにはいかないと思って、慌てて洗濯物を干し終えると、急いで部屋の中に戻った。
「トモキ、どうしたんだ? 先ほどから何やら様子がおかしいが。何かあるなら教えてくれ」
「いえ、なんでもないです」
「本当に?」
じーっと見つめられると、ドキドキしてさっと目を逸らしてしまった。
「目を逸らすということはやはり何かあるのだろう?」
「――っ!」
さすが騎士団長さんだ。
彼に見つめられていると、なんでも白状せずにはいられなくなってしまう。
「何かあるなら、教えてくれないか? トモキに何か我慢をさせているのなら改めるから何でも言って欲しいんだ。私にはトモキしかいないのだから……」
そう言われてハッとした。
そうだ。
クリスさんは遠い異世界からたった一人でここにやってきて、何もわからない。
そんな中で僕に何か隠し事をされていると思ったら不安になっても不思議はない。
僕はいつでもクリスさんには包み隠さず話した方がいいんだ。
でも……クリスさんがカッコよくて見惚れてた、なんて……口にするのは恥ずかしすぎるんだけどな。
「トモキ……私には、話せないことか?」
おっきなワンコが悲しげにこっちの様子を伺っているような、そんな視線にぐっと込み上げるものがある。
「あの……だから、その……クリス、さんが……」
「私が?」
ええい、言ってしまえっ!!
「その服を着たクリスさんがあまりにもカッコよくて見惚れちゃってただけですっ! 僕が勝手にドキドキしちゃってただけでクリスさんにおかしいところはありませんっ!!」
勢いよく全てを言い切った後で、クリスさんの反応が気になって恐る恐るクリスさんに目を向けると、
「あれ?」
てっきり呆れられてると思ったのに、なぜか顔を真っ赤にして茫然と僕を見つめていた。
「クリスさん? どうかしました?」
「あ、いや……まさか、トモキからそんなことを言われるとは思ってもなかったものでな……驚いただけだ。いや、だが……その、嬉しいよ」
嬉しい?
ってどういう意味だろう?
聞き返そうと思ったけれど、なんとなく聞くのは憚られてそのまま話は終わってしまった。
「あ、あの……じゃあ、服も着替えたし、そのほかにいるものを買いに行きましょう! あんまりお金がないので大したものは買えないですけど」
財布に残ったお金と貯金の残高を頭に思い浮かべながら話をしていると、
「そうだ、トモキに大事な話がある」
そう言って、クリスさんに畳間に連れて行かれた。
「どうしたんですか?」
「これを金に換えるところに連れて行ってほしい」
「これ……」
「これは私が国王から頂いた勲章メダルだ。金とダイヤモンドで作られているのだが、ここにも宝石の類は売られているか?」
「金……ダイヤモンド……」
キラキラと輝くこのメダル。
途轍もない光を放っていると思っていたけれど、まさかこれ全部が宝石だったなんて……。
「どうだ?」
「あ、あのものすごく貴重なものですけど……でも、そんな大切なものを売ったりしていいんですか? せっかく国王さまから頂いたものなのでしょう? そんな大切なものはきちんと取っておかないと! お金なら心配しないでください。僕、今まで以上に働きますから」
そんなすごいものを売らせるわけにはいかない。
クリスさんが今まで頑張ってきた証なのに……。
「トモキの気持ちは嬉しいが、こんなメダルなどあちらに帰れば100以上持っているのだ。だから数個無くなっても大した問題ではない。それにそもそも向こうに帰れなければ、勲章の意味もないのだ。ただこうして無駄に置いているよりは、トモキと私の生活の足しになればそっちの方がこのメダルは生きる。そう思わないか?」
「クリスさん……」
「私にとって、今はこのメダルよりもトモキとの生活を守りたい。だから、頼む」
クリスさんの言葉が優しく心に響いてくる。
ああ、なんてこの人は優しい人なんだろう。
僕はこの恩に報いるためにも精一杯クリスさんのお世話をしないとな。
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