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信頼できる者

扉を開け中に入ると、すぐに 「いらっしゃいませ」 と声がかかった。 私のこの姿を見ても特に変わった様子は見えないな。 ふふっ。まずは合格といったところか。 「これを買ってもらいたくて来たのだが……」 「はい。お買取のご相談でございますね。どうぞこちらへお掛けください」 我が家の執事のような態度に好感が持てる。 案内された席に腰を下ろすと、向かい合わせに店主の彼が腰を下ろし、さっと白い手袋を身につけた。 「手袋か……」 「はい。お品物を傷つけないためにございます。お売りいただくお品物を拝見しても宜しいですか?」 「ああ、これだ」 トモキから借りた袋から、勲章メダルを取り出すと彼はすぐにベルベット生地に覆われたケースを差し出した。 私がメダルをそこに置くと、 「なんと素晴らしい……」 彼は感嘆のため息を漏らしながら、何やら器具を取り出しメダルを丹念に調べ始めた。 一通り調べ終わったのか、メダルから目を離し 「失礼でございますが、これはどちらからのお品物でいらっしゃいますか?」 と尋ねてきた。 「国はいえぬが、我が国の王より頂いた勲章メダルだ。どうした? 何か不備でも見つかったか?」 「いえ、不備など滅相もございません。それどころかあまりの素晴らしさに感動してしまいまして……」 「ほぉ、其方にはこのメダルの良さがわかったようだな」 「はい。この金といい、ダイヤモンドといい、おおよそ通常では見られぬ特級品でございます」 「ならば、いかほどで買い取ってくれる?」 「このメダルですと、1000万でいかがでございましょう?」 「ふむ、1000万か……」 下調べの時点でもそれくらいかと踏んでいたが、もう少し交渉してみる余地はありそうだな。 「実はこのメダルはあと8個所有しておってな」 「ええっ?」 「このメダルはその中でも一番下のものを持って来たのだ。そのほかのメダルもこちらで売るから、このメダルにもう少し色をつけてくれぬか?」 「なんと……これよりもさらに素晴らしいものをお持ちなのですか……」 信じられないといった表情を浮かべる彼に 「私は嘘は言わぬ。どうだ? 私を信用してみないか?」 と見つめた。 彼の目利きが本物ならば、この交渉に否というはずはない。 「どうする?」 「承知いたしました。あなたさまを信用して、このメダルに1500万円お出ししましょう。いかがでございますか?」 「ああ、それでいい。実のところ、それは1500万円でも安い買い物だろう?」 「ふふっ。ご存じでございましたか? 私も商売人でございますので最初から手の内はお見せいたしません。あなたさまの反応も拝見しとうございました」 「なるほど」 「ですが、次回からは最初から手の内を晒して参ります」 この店主の彼とはいい付き合いができそうだ。 「お支払いはいかがいたしましょう? 小切手になさいますか? それとも現金でお持ち帰りになりますか?」 「そうだな、現金で頼もうか」 「承知いたしました。すぐにご用意いたしますのでしばらくお待ちください」 交渉も終わったし、この間にトモキを連れてくるとしよう。 「連れを待たせているので連れてくる。しばらく空けるぞ」 「承知いたしました。その間にご準備いたします」 深々と頭を下げる彼の見送りを受けながら、私は店に出てトモキを待たせている場所に戻った。 すると…… <side智己> クリスさんと買取店に来たものの、見た目で判断され怒ったクリスさんは僕を連れて早々に店を出た。 彼だけならあんな嫌な思いをすることはなかっただろう。 僕がいたせいでクリスさんに嫌な思いをさせてしまったな……。 気落ちしながら次の店を見つけて勧めると、クリスさんは自分一人で行くといい出した。 やっぱりそうだよな。 僕みたいな子どもが行っても交渉の邪魔になるだけだもんな。 彼のお世話をするどころか、迷惑ばかりかけているんじゃないかと不安になってくる。 彼を見送り、店から少し離れた場所でクリスさんが戻ってくるのを待っていると、 「ねぇ、こんなとこで一人で何やってんの?」 と声をかけられた。 「何? 待ち合わせでもすっぽかされた?」 「えーっ、ひっでぇことする奴いるんだなぁ。こんな可愛い子放ってすっぽかしなんてな」 「ち、違いますっ! 少し用事があって、は、離れてるだけですぐに戻ってきます」 「ははっ。戻ってくるわけねーじゃん。お前、捨てられたんだよ。邪魔だって」 「えっ? そ、そんなこと……」 「はいはい。そう思いたいのはわかるけどね。可哀想な君には俺たちが一緒に遊んであげるって。ほら、あっちにホテルがあるから行こうぜ」 「や、やめてくださいっ!!」 「一人で俺たちから逃げられると思ってんの? ほら、抵抗しない方が身のためだよ」 そういって、目の前の男が小さな刃物を取り出してきた。 刃に太陽の光が当たって、恐ろしく光ってる。 「や――っ、やめてっ!」 怖くて足がすくんでしまい必死に声を上げしゃがみ込むと、 「ぐぅーーっ!!」 「がはっ――!」 目の前にいたはずの男たちが苦しげな声を上げながら飛んでいった。 「え――っ」 驚いて顔を上げると、 「トモキ、大丈夫か?」 と目の前にクリスさんがいた。 「あ、だ、大丈夫、です……」 「悪かった、私がトモキを一人にしてしまったから……」 そういって差し出された手を握った瞬間、さっき吹っ飛んでいった男たちが起き上がるのがクリスさん越しに見えた。

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