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どうしていいかわからない
「わぁ――っ!! クリスさん、後ろ!」
キラリと刃物が光るのが見えて、思わず大声で叫ぶとクリスさんはすぐ横にあった幟(のぼり)を引き抜き、サッと男の手を叩いた。
「いたっ――!!!」
男が痛がっている間に、サッと足で刃物を蹴り飛ばして喉元に幟を突きつけた。
「ひぃーーっ!!」
男は身動き一つ取れないまま、足をガクガクと震わせている。
僕はそんなクリスさんのその鮮やかな身のこなしと、美しい姿勢に見惚れてしまっていた。
仲間を助けようと思ったのか、もう一人の男が果敢にもクリスさんに闘いを挑もうとしていたけれど、クリスさんのあまりの隙のなさに動けないでいるみたいだ。
「た、助けてくれーっ」
震え上がった声で必死に助けを求める姿に僕はハッと我に返り、
「あ、あのクリスさん、もうその辺で」
とクリスさんの腕を引っ張ると、
「トモキがそういうなら」
とさっきまで男にむけていた視線とは全く違う柔らかな表情を見せてくれた。
「もう二度とトモキに近づくなっ!」
男たちにそう叫び幟を下ろすと、男たちは焦ったように走り去っていった。
「トモキ、大丈夫だったか? 私が一人にしたせいだな。申し訳ない」
「そんな……僕がうまくあしらえなかっただけです」
「トモキの護衛をすると約束したのに別行動をしてしまった私が悪いのだ」
「いいえ、僕がただ至らなかっただけです」
「いや、私が――」
「ふふっ」
必死に自分が悪かったと言ってくれるクリスさんの姿がさっきの姿とは全く別人で、それがなんだか面白くなってきて僕は思わず笑ってしまった。
「どっちも悪くなかったってことにしておきましょうか」
「ははっ。そうだな」
その時のクリスさんの笑顔が眩しくて、僕はなんだか胸の奥が騒ついていた。
クリスさんが幟を元に戻すのを見ながら、
「さすが騎士団の団長さんですね。棒を持つ様がすっごくかっこよかったです」
というと、
「――っ、そうか? いや、トモキにそう言ってもらえて嬉しいよ」
と笑っていた。
いや、でも本当にかっこよかった。
ピシッと姿勢が良くて、それでいてどこからも隙がなくて……。
守られて嬉しかったもん。
「あ、そういえば用事は終わったんですか?」
「今準備をしてもらっているところだ。トモキが気になって迎えにきたのだが危ないところを助けられて本当に良かった」
クリスさんに抱き寄せられてドキドキする。
「さぁ、そろそろ準備も終わっただろう。トモキも一緒に行こう」
「あ、でも僕なんかが入っても……」
クリスさんにまた嫌な目に遭わせてしまうんじゃないかと不安になる。
「大丈夫、あそこの店主はちゃんと人を見る目がある。心配しないでいいよ」
そう言って、お店へと連れて行かれた。
その間ずっと腰に腕を回されていて、ピッタリと寄り添ったままだった。
正直周りの視線も気になるし、どうしていいかわからなかったけど、クリスさんの世界ではそれが普通なのかもしれないし、それに……クリスさんと近くて嬉しい僕がいる。
一体どうしちゃったんだろうな……僕。
クリスさんが扉を開けると、
「おかえりなさいませ」
と柔らかな声が聞こえた。
本当だ。
さっきのお店の人とは全然違う。
「準備はできたか?」
「はい。整ってございます」
まるで主人と執事のような話し方に驚きながらもそれがすごく似合っていると思ってしまう。
店主さんはスーツケースのようなものをテーブルに乗せると、パカっと中を開いて見せた。
「――っ!! これっ!!」
ケースの中はとんでも無い量の現金。
「ああ、ありがとう」
クリスさんはそれを当然のように受けとった。
「あの、これ……」
「あのメダルがこれだよ」
「うそっ、こんなに?」
ものすごく価値はありそうと思ったけれど、まさかここまでとは思わなかった。
「トモキ、これで必要なものを買いに行こう。好きなだけとっていいぞ」
パカっとケースを開いたまま、そういうけれどこんな大金見たことない。
触れていいのかさえわからなくて戸惑ってしまう。
「トモキ、どうした?」
「あ、あの…じゃあ」
おずおずと1枚だけ引き抜くと、
「トモキ……それでいいのか?」
と驚いた声が聞こえる。
「大丈夫です、僕……安いところ知ってますし、それはクリスさんのお金ですからクリスさんが使うべきです」
「トモキ……私は其方と使うために用意したのだ。これはトモキの金でもあるのだぞ」
「いえ、でも……」
「僭越ながら、お客さま……こちらのお客さまは贅を好まれる方ではないとお見受けいたしました。ですから、今は無理を通されず、お二人で話し合って有意義に使われることをご提案いたします」
店主さんのその言葉にクリスさんは納得したように頷いた。
「では、とりあえず必要なものを買いに行こう。そのあとでゆっくりと話し合おうか」
そう言われて僕は小さく頷いた。
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