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家を探そう
<sideクリス>
私の言葉に智己は小さく頷いた。
どうやら納得してもらえたようだ。
あの店主の助言に感謝だな。
この世界で智己以外にも信頼のおける者の存在ができたというのはありがたいことだな。
私は店主に礼を言い、トモキを抱き寄せて店を出た。
「あ、あの……そんな大金を持ち歩いて大丈夫ですか?」
「ふふっ。心配はいらない。このケースには何人たりとも触れさせはしない」
世界最強と恐れられるビスカリア王国騎士団で騎士団長の座についているのは伊達ではない。
「あ、そっか。クリスさん、すっごく強かったですね。びっくりしました」
「ふふっ。見直したか?」
「えっ、見直しただなんて……っ、クリスさんはずっとかっこいいですよ」
「えっ?」
「あっ!」
「トモキ、それはどういう意味だ?」
「えっ、いえ……あの、そんな深い意味はないです!」
もっと深く追求したかったが無理やり言わせるのは性に合わない。
今はいい。
きちんと体制を整えてからだ。
「あの……ここでお買い物をしましょう」
連れられていった先は、何やら色々なものが揃っている店。
そこで生活に必要なものをトモキは吟味しながら、買い物をしてくれた。
金はあるのだから気にしないでいいのに。
だが、そんなとこもトモキらしくて可愛いと思えた。
トモキの家に戻り、荷物を置くと私はトモキをテーブルに呼び、大事な話を始めた。
「トモキ、私はこの金で家を探そうと思っている」
「えっ? お家を?」
「ああ、そうだ。そして、そこにトモキと一緒に住みたいと思っているのだがどう思う?」
「僕も、一緒に?」
「そうだ。あの紙を読んだのだが、この家は近いうちに壊されるのだろう?」
そう尋ねると、トモキの顔が一気に青ざめた。
「ご存知だったんですね。そうです、耐震性に問題があるとかで、ここから出ないといけないんですけど引っ越しするお金がなくて……最後の残っていた角の子も来週引っ越しだって不動産屋さんが話してました。だから僕にも早く出ていって欲しいって。一応引っ越し金は少しですが出るそうなんですけど、引っ越した後の家賃が払えそうになくて……。でも、クリスさんの大事なお金をこんなことに使うなんて申し訳ないです」
「何を言ってるんだ!! 家は一番重要だろう? その家に私はトモキと共に住みたいのだ。そのためにこの金を使えるのならこの上ない使い道だろう?」
「クリスさん……」
「トモキ、一緒に住む家を探してくれるだろう?」
私の言葉にトモキは涙を流しながら
「クリスさん……お願いします」
といってくれた。
そうと決まれば、家探しだ。
ここは居心地はいいが、トモキと二人で暮らすとなるとかなりの手狭だし、何より壁が薄すぎてトモキの安全を確保しにくい。
もっと警備に優れた家を探さなければな。
「トモキはどういった家がいい?」
「僕はお風呂とトイレが別々ならどこでもいいです」
「ふふっ。それは確かに別がいいな」
「あっ、そういえば家を借りる時には保証人が必要なんです」
「保証人?」
「クリスさんはこの世界に身分証もないから、ちょっと考えないといけないかもですね」
確かにビスカリア王国でも何かの契約をする時には保証人が必要だな。
うーん、そこはどうするか……。
流石にあの店主に頼むわけにはいかないな。
「そうだ! 僕の働いている喫茶店のマスターに保証人になってもらえるか頼んでみます」
「その者は信用できるのか?」
「はい。マスターは父の親友で、働くところがなかった僕を雇ってくれた恩人なんです。だからきっと親身になってくれると思います」
トモキがそういうなら間違いはないだろうが……。
何か邪な気持ちがあってトモキに優しくしているのではあるまいな?
そこを見極めるためにも一度会ってみたいものだ。
「トモキ、明日はそこに働きに行くのだろう?」
「はい。だから明日頼んでみますね」
「いや、明日は私も一緒に連れていってくれないか?」
「えっ? でも……」
「ここで一人で過ごしてもいても何もならないだろう? トモキと一緒に住むのならば、私もその者に頼んだ方が良いのではないか? それに私はトモキの護衛をすると言ったはずだ。トモキ一人で行かせるつもりはないぞ」
そういうと、しばらく考えていたようだったが、
「わかりました。マスターに頼むのも一緒の方がいいかもしれませんしね」
と言って納得してくれた。
よし、これでそのマスターとやらがどんなやつか見極めてやるとしよう。
「おはようございます!」
トモキが元気な声をあげながら入っていったのは、小さな店だった。
ここがトモキの職場か……。
なかなか雰囲気の良い場所だ。
声をかけるまで待っていてくれと言われ、大人しく待ちながらトモキの様子を見つめている。
「おお、智己。今日も早く来てくれて助かるよ。あれ、今日はやけに顔色がいいな。ゆっくり休めたのか?」
「はい。そうなんです。だから今日からまた頑張ります!」
「ははっ。張り切ってるな。その調子で頼むよ」
「あの、それでマスター……ちょっと大事なお話があるんですけど、仕事前に少しお時間いただいてもいいですか?」
「ああ、それは別に構わないが、何かあったのか?」
「実は紹介したい人がいて……」
「何? 紹介したい人? お前、まさか結婚するのか?」
「えっ? ちが――っ、違いますっ!! そうじゃなくて、あの、クリスさん!」
トモキに声をかけられ、私はそのマスターとやらの前に出た。
かなりトモキとは親しそうな口ぶり。
私は知らぬ間に、そのマスターとやらに鋭い視線を向けてしまっていた。
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