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クリスさんの手料理

<side智己> 煽るとか奪うとかクリスさんの話していた意味がよくわからなかったけれど、とりあえず食事にしようと言われて、お腹が空いていたことに気づいた。 そういえば、何も食べないままに引越しして眠っちゃったんだった。 僕がこんなにお腹が空いているんだから、きっとクリスさんはもっとお腹が空いているに違いない。 クリスさんと一緒にキッチンに行き、今までの三倍はありそうなほど大きな冷蔵庫を開けると、山のように食材が入っていた。 「わぁっ! 何これっ、すごいっ!!」 驚きながら、冷凍庫や野菜室も見てみると、こちらにも山のように食材が入っている。 いつもいかに少ない食材で料理を作れるかを考えていただけに、こんなに食材が詰まったのをみるともはや驚きしかない。 「おおっ、タツオミがこんなに入れておいてくれたのか。素晴らしいな」 「こんなにたくさんの食材で作ったことがないのでびっくりですけど、とりあえずこれからはダメにしちゃう前に足が早いものから使っていったほうがいいですね」 「足がはやい?」 「ああ、えっと……腐っちゃうものからってことです」 「ああ、なるほど。それで足がはやい。面白い表現だな」 クリスさんはそう言って笑うと、 「今日は私が料理をしようか」 と言い出した。 「クリスさん、料理できるんですか?」 「ああ、大したものは作れないが、騎士団の野営でたまに作ることがあるからな」 「そうなんですね。どんなものを作るんですか?」 「そうだな、山で仕留めた獣肉や、芋や茸をオイルとニンニク、塩で煮込んだものをパンと一緒に食べるんだが、これはかなりイケルぞ。団員たちから人気のある料理だ」 「わぁ、美味しそうですね! じゃあ、僕お手伝いします」 「ああ、頼むよ」 とは言ったものの、クリスさんの手際が良くて見惚れてしまう。 団員さん達に振る舞っているというのは伊達じゃないな。 僕はクリスさんの料理を見ながら、キッチンに置かれていたフランスパンを斜めに切って用意し、野菜室にあったきゅうりやトマト、レタスでサラダを作っておいた。 「さぁ、トモキ。できたぞ」 キッチンにオリーブオイルとニンニクのいい香りが漂っていて、それだけでお腹が鳴ってしまう。 鉄鍋用の板を敷いて、それを乗せると鍋の中でくつくつとしているのが見える。 「熱いからな。火傷しないように」 器に取り分けてもらい、まずはそのオイルにパンを浸して食べると茸の風味が移っていてとても美味しい。 「これ、初めて食べましたけどすっごく美味しいです!」 「ふふっ。喜んでくれて嬉しいよ」 パンに具材を乗せたり、チーズを入れたりして食べているうちにあっという間にクリスさんの作ってくれた料理を完食してしまった。 「ふぅ……もうお腹いっぱい。クリスさん見てください」 ぽっこりと膨らんだお腹をさすりながら見せると、なぜか顔を真っ赤にして 「満足してくれて何より」 と言ってくれた。 あっ、もしかしてこういうのって、クリスさんのところじゃはしたない行為だったりするのかな……。 うわっ、恥ずかしい。 気をつけないと! 「じゃあ、片付けるとするか」 「あ、クリスさん怪我をしているんですから片付けは僕に任せてください」 切るのは片手で上手にしていたけれど、さすがに片手で洗うのは難しいだろう。 「ああ、怪我なら問題ない。もうほとんど良くなっているよ」 「えっ、まさか……」 「信じられないなら見せてやろう」 そう言ってクリスさんは腕を捲り上げ、包帯を外してくれた。 「わっ! 本当だ!」 傷ひとつ見えないとは言わないけれど、もうすっかり塞がっているように見える。 クリスさんの回復力に驚きしかない。 「トモキの手当てが良かったんだ。ありがとう」 「いえ、そんな……」 多分、治癒能力が優れているんだろうな。 異世界の人だし、そう納得するしかない。 「だが、湯に浸かるのは心配だから、一緒に入ってくれるか?」 「えっ、あ、はい。もちろんです」 いきなりのお風呂の誘いに思わず『はい』と言っちゃったけど、クリスさんって怪我したばかりの日も一人でお風呂入ってたよね? もうほとんど治っちゃってるのに、僕一緒に入っちゃっていいのかな? そう思ったけれど、クリスさんがなんだか嬉しそうにしているからいまさら断るわけにはいかなかった。 手際よく片付けを終え、 「さぁ、トモキ。風呂に入ろう」 と嬉しそうに誘われて、とりあえず着替えを手にお風呂場へ向かった。 「そういえば、お風呂場見てなかったですね」 「そうか。トモキは部屋を片付けていたからな。私がタツオミに使い方を聞いておいたから心配しないでいい。すでに湯も溜めてあるぞ」 「わぁー、すごいですね! ふふっ。最初の日と逆ですね」 「ああ、そうだな。今日は私が教えるから安心してくれ」 ふふっ。 クリスさんがはしゃいでる。 なんだか可愛いな。 お風呂場の扉を開けると、広い脱衣所が現れた。 奥のガラス扉からは、脱衣所よりも広いお風呂場が見えている。 「わぁーっ、今までのアパートの十倍くらいありそう!」 「ふふっ。ここならトモキとも楽に入れるな」 ああ、そうか。 わかった。 初日に一緒に入るのを嫌がったのは、あのお風呂場が狭かったからだ。 騎士団長さんのお家はきっとここくらいお風呂も広いんだろうし。 やっと自分の慣れ親しんだお風呂場に近いものに出会えて嬉しくなっちゃったんだろうな。 確かにあのアパートのお風呂場に身体の大きなクリスさんとじゃ疲れも取れないか……。 こんなにクリスさんが嬉しそうなんだもん。 この家に引っ越せて本当に良かったな。

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