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公爵家の未来

<sideマイルズ> 行方不明になられていたクリスティアーノさまが、突然ジョバンニさまと共に屋敷に戻られたのは数日前。 ただ事ではない様子に戸惑いながらも、とりあえずは無事に戻ってこられたことに安堵していた。 しかし、それからしばらく経って旦那さまがお帰りになり、クリスティアーノさまとお話がしたいと旦那さま自らお部屋に出向かれたものの、クリスティアーノさまは一向に出てくる気配がない。 代わりにジョバンニさまが出てこられて、クリスティアーノさまの今の状況をお話しくださった。 まさか行方不明の間、異世界に行かれていたとは……。 私の中で想像の範疇をかなり超えているが、異世界で最愛の方と出会い、それが突然クリスティアーノさまだけこの世界に戻ってこられたとなれば、あのただ事でない様子も納得がいく。 旦那さまはジョバンニさまのお話にひどくショックを受けられた様子だった。 それもそのはず。 ご自分がなさったことでクリスティアーノさまの幸せを奪ってしまったのだから……。 「私は、クリスティアーノのために良かれと思って……っ」 「存じております。バーンスタイン公爵さまがクリスティアーノ団長のために神殿長にお頼みになられたことは決して間違いではございませんが、ただタイミングが悪かったのです。今、団長は最愛のお方と引き裂かれて失意のどん底に落ちておられます。今はこれ以上、団長を刺激なさらないように私からもお願い申し上げます」 「ああ……っ、私はなんということを……。ジョバンニ、クリスティアーノの運命の相手とやらがこちらにくる可能性はどのくらいあるんだ?」 「正直なところを申しますと、かなり低いと思われます。ですが、団長はほんの少しの可能性にかけてでも、最愛のお方との再会を待ち望んでいらっしゃいます。その思いだけで生きていらっしゃるようなものでございます」 「それではクリスティアーノは死んでしまうのではないか?」 「おそらくその覚悟もなさっていることでしょう。それほどまでにそのお方を愛していらっしゃるのです。誰も代わりにはなれませぬ。ですから、公爵さま……もし、奇跡が起きて団長の元にそのお方が現れたら、心から歓迎して差し上げてください。そのお方は我が国の救世主となられるお方ですから……」 「それはもちろん! そうするつもりでいるが、可能性は低いのだろう? もう一度神殿長に頼んでくるか?」 「公爵さま! 団長と運命のお方のことをお考えになるなら、どうかもう何もなさらないで下さい! お願いいたします」 ジョバンニさまが必死に頭をおさげになると、ようやく旦那さまも納得されたようで、 「それでは私はクリスティアーノを刺激しないように屋敷から出て、兄上の元に身を寄せておくとしよう」 と重い腰を上げてくださった。 「救世主さまとわかるまで、陛下にはくれぐれもお話にはならないようにお願い申し上げます。余計な混乱を引き起こしかねませんから」 「ああ、分かっておる、ジョバンニ、マイルズ……後のことは頼むぞ」 「承知いたしました。どうぞお任せください」 何かあったらすぐに連絡をよこすように…そう仰って旦那さまは屋敷を出て行かれた。 クリスティアーノさまは、ジョバンニさまだけはお部屋に入ることをお許しになったが、私の含めて他の者の入室は一切お許しにはならなかったから、ただひたすらに出てこられる日を待つ日々が続いた。 すると、突然クリスティアーノさまの寝室のベルが鳴った。 書斎に篭りっきりになっていらっしゃるはずのクリスティアーノさまの寝室からベルが鳴ったことに私は一抹の不安を覚えた。 もしかしたら、無理がたたってお倒れになったのではないかと。 慌てて部屋にいき、寝室の扉の前で声をかけると思ったよりも元気そうなクリスティアーノさまの声が耳に入ってきた。 入れと許可をいただき、足を踏み入れクリスティアーノさまが寝ていらっしゃるベッドに顔を向けるとそこには見たこともないほど可愛らしい人がクリスティアーノさまとピッタリと寄り添って横たわっていらっしゃった。 まさか、奇跡が起きたのか? あまりの驚きに床に崩れ落ちながら、クリスティアーノさまにお尋ねすると今までに拝見したことがないほど嬉しそうな表情をなさりながら、 「私の伴侶・トモキだ」 と仰った。 ああ、クリスティアーノさまのご伴侶さまをこの目で拝見する日が来ようとは……夢にも思わなかった。 しかもこんなにも美しく、素晴らしい挨拶をなさるお方がお相手とは……。 なんでもお申し付けくださいと頭を下げた私に遠慮なさろうとしたが、クリスティアーノさまから甘えるようにとの言葉にトモキさまは素直に頷かれた。 どうやらクリスティアーノさまのことは心から信頼なさっているようだ。 お二人が相思相愛でいらっしゃることに嬉しさが止まらない。 だが、心配なところが一つ。 トモキさまの顔色が悪すぎるのだ。 もしかしたらこの世界がトモキさまに合わないのか……心配でたまらない。 クリスティアーノさまもそれがご心配なのか、ニコラス医師の診察を受けさせたいと仰った。 何もなければ良い……そう思いながら、私は急いでニコラス医師をお連れすると、ニコラス医師はトモキさまの顔色の悪さにはすぐにお気づきになった。 けれど、トモキさまは何も悪いところなどないと言って診察を拒もうとなさる。 どうしたのだろうと思っていると、ニコラス医師は 「ご心配なさらずとも大丈夫ですよ。クリスティアーノさまと離すようなことは致しません」 とトモキさまにお話になった。 その瞬間、トモキさまに安堵の表情が見えて私はわかった。 トモキさまはクリスティアーノさまと離れるのが嫌でそう仰ったのだ。 それほどまでにクリスティアーノさまとのお別れはトモキさまの心に傷をつけてしまったのだろう。 あんなにも可愛らしいお方の心を傷つけてしまったことに胸を痛めながら、ニコラス医師の診察を見守っていると、トモキさまは極度の疲労と栄養失調だと診断された。 「お薬はお出ししますが、この病気の一番のお薬はしっかりと休養をとり、お食事をなさることです。クリスティアーノさま、どうかお近くで支えて差し上げてくださいませ」 「ああ、わかった。マイルズ。何か栄養のつく消化に良いものを作ってくれ」 「承知いたしました」 私は急いで厨房へ向かい、シェフのルディにすぐにトモキさまの食事を作るように指示を出した。 ルディは突然のことで驚いているようだったけれど、クリスティアーノさまのご伴侶さまのためのお食事だと話すと嬉しそうに食事を作り始めた。 この国のシェフの中でもルディは5本の指に入るほどの実力の持ち主だ。 ルディの食事をしっかりと召し上がって、ゆっくり休養をとられたらきっとすぐに元気なお姿を見せてくださるに違いない。 ああ、この公爵家にも楽しい未来がやってきそうだ。

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