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トモキのために
<sideクリス>
トモキのあまりにも美しく淫らな姿にすっかり箍が外れてしまい、気づけばどちらのものともわからない蜜に塗れてぐったりとベッドに横たわるトモキの姿があった。
私は急いでトモキを抱き上げ、風呂場で綺麗に身体を清めてから夜着を着せた。
その間もトモキがぐったりと目を瞑ったまま、自らの力では動くのは不可能な状態だった。
――トモキさまの体力に合わせて差し上げてください。
――くれぐれもトモキさまにご無理はなさらないように!! 団長を信じますよ。
ニコラスとジョバンニ、二人の言葉が今頃になって胸に突き刺さる。
本当にあの時までは自制できると思っていたのだ。
だから、こんなことになるとは本当に夢にも思っていなかったのだ。
私は鬼畜ではない。
あの言葉に嘘はない……あの時までは。
だが、今の私はどうだ?
鬼畜以外の何ものでもないではないか。
トモキをソファーに寝かせ、汚れたシーツを剥ぎ取り新しいシーツに替えてからトモキをベッドに寝かせたものの、やはり身動きひとつない。
「んっ?」
見ればほんのり頬が赤い。
もしや……と思って、トモキの額に手をやると恐ろしく熱い。
すぐにニコラスに診せなければ、トモキを失ってしまうことになるかもしれない。
そんな考えが頭をよぎった途端、途轍もない恐怖に襲われ急いでベルを鳴らした。
早く来てくれ!
トモキが、トモキが!
するとすぐに扉が叩かれ、マイルズが中に入ってきた。
私一人だけで寝室の前に立っているのを不審に思ったのだろう。
トモキはどうしたと尋ねてくるマイルズに、トモキが熱を出したと伝えるとマイルズは慌ててベッドに横たわるトモキに目をやった。
その姿を見るや否や、今まで見たこともないほど感情を消し冷ややかに私を見つめ、これはどういうことかと問いかけられた。
何もかもわかったような表情で尋ねられ身震いしてしまう。
「ついトモキの美しさに箍が外れて……」
そう話した途端、電光石火の如くマイルズが怒り狂った。
こんなにまで怒鳴りつけられたことは今まで一度たりともなかった。
それほどまでにトモキを傷つけてしまったのだと思うとただただ申し訳なくて、診察が済むまでトモキに触れるなと言われても素直に従うしかなかった。
「クリスティアーノさま。体力差をお考えくださいと申し上げましたよね?」
ニコラスの鋭い視線が突き刺さる。
「ああ、何も言い訳はない。私が悪かった。反省している」
「はぁーっ。クリスティアーノさまのお気持ちはよくわかります。運命の相手にようやく出逢われて、しかも一度は引き裂かれたのです。しかも、体調回復のためにずっとそばで介護なさって今までずっと自制なさってこられたのです。そんなお相手とようやく交わりとなれば、箍が外れてしまうのもわかります。だからこそ、私もジョバンニさまも忠告したのです。それでも足りなかったのでしょうね」
「本当に申し訳ない。トモキにも申し訳ないと思っている。だから――」
「もう二度と触れないと仰るのだけはやめてください」
「えっ? ニコラス……」
「トモキさまが嫌だと一度でも申されたら、どんなに箍が外れていてもクリスティアーノさまは留まったはずでございます。けれど、それがなかったということは、トモキさまもクリスティアーノさまとの交わりを望んでいらっしゃったのでしょう。それが今回のことで、もう二度とトモキさまと交わりはなさらないとなれば、トモキさまはご自分のせいだとお責めになるはずでございます」
「――っ!!!」
「今、クリスティアーノさまがなさらなければいけないことは、離れることではありません。トモキさまに寄り添って誠心誠意尽くすことです」
「ニコラス……そうだな。その通りだ。私は一番考えなければいけないトモキの気持ちを考えていなかった」
そういうと、ニコラスはようやく安心したように笑顔を見せてくれた。
「トモキさまは回復なさったばかりでの激しい運動に、熱をお出しになっただけのようですのでこちらの薬を一日に二回。飲ませて差し上げてください。三日間は絶対安静。その後もしばらくはご自分で歩いたりするのはお控えください。クリスティアーノさま、トモキさまのお世話をお願いいたします」
「ああ、わかっている。任せてくれ」
「言っておきますが、回復中にトモキさまに無体な真似をなさった時は――」
「皆まで言うな。わかっている」
「何かあればすぐにお呼び下さい」
そう言ってニコラスは寝室を出て行った。
入れ替わるようにマイルズとジョバンニ、そしてタツオミもやってきた。
「マイルズ……さっきは叱ってくれて目が覚めた」
「言っておきますが、まだ許したわけではございませんよ。ですが、トモキさまにはクリスティアーノさまがおそばにおられるのが一番良いとニコラス医師も、それにタツオミさまも仰るので、そうしているだけでございます」
「ああ、わかってる、感謝している。もう決して過ちは繰り返さないと誓うよ」
私の言葉にようやく三人は納得してくれたようで部屋から出て行った。
二人きりになった寝室で、私はトモキの隣に身体を滑らせトモキを抱きしめた。
薬が効いているのか、先ほどまでの熱さは少し落ち着いているようだった。
ああ、トモキ……。
苦しい思いをさせてすまない。
だが、トモキが元気になるまでずっとそばにいるからな。
トモキが目を覚ましたのはそれから数時間後のことだった。
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