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なんとかご無事で……

<sideマイルズ> 「クリスティアーノさまとトモキさまが今宵、初夜を過ごされるかもしれません」 「えっ……トモキさまの体力が回復なさったのですか?」 「万全とまではいきませんが、一度の交わりくらいなら可能でしょう。一応、クリスティアーノさまには回復したばかりですからとご忠告申し上げましたが、実はここで一つ問題が発生しまして……」 「問題? と申しますと?」 「実は、トモキさまが交わりについて一切ご存知ではなかったのです」 「はっ?」 私には、ニコラス医師の言葉の意味がすぐには理解できなかった。 交わりについて何もご存知ない? トモキさまは身体もお小さく、一見すると10歳くらいのように見えるけれど、成人は疾うに過ぎているとクリスティアーノさまが仰っていた。 それなのに交わりについて何もご存知でないなんて驚くを通り越して衝撃としか言いようがなかった。 「今、ジョバンニさまとタツオミさまがトモキさまに交わりについてお教えくださっているのです。ですからクリスティアーノさまとトモキさまが一気にご夫夫となられるのも時間の問題かと……」 「ですが、万全に回復はなさっていらっしゃらないのですよね? お身体は大丈夫なのですか?」 「クリスティアーノさまにも忠告は致しましたし、おそらくジョバンニさまもご忠告なさっていると思いますので、いつものクリスティアーノさまなら大丈夫かと存じますが……その、トモキさまのことになりますとどうもいつものクリスティアーノさまとは違うようで……。ですから、マイルズ殿にはどうかお気にかけていただきたいのです」 「私もそのことが心配でならないのです。例え、トモキさまが万全であったとしても、クリスティアーノさまをお受け入れになるのはかなり難しいと思われますが、クリスティアーノさまのトモキさまへのご執着はかなりのものでございますから、一度で終わるかどうか……」 「ですから、マイルズ殿にお頼みしているのです。もし、明日の昼になっても寝室から出て来られない場合は、強行突破なさってでもお入りください。また、もしそれまでに出て来られてもトモキさまのご体調に何か少しでもご心配なことがあればすぐに私をお呼びください。よろしいですか?」 「承知しました」 「マイルズ殿、くれぐれもお願いしますよ」 念を押すように繰り返すと、ようやく安心なさったのかニコラス医師は帰宅の途につかれた。 とりあえず、お話くださったジョバンニさまに様子を伺ってみよう。 ジョバンニさまとタツオミさまがいらっしゃる客間へ足を向けると、部屋の前で警護している騎士に 「今はお声かけにならないほうがよろしいかと存じます」 と声をかけられた。 どうやらお二人は情事の真っ最中のようだ。 本当に仲睦まじくていらっしゃる。 あのジョバンニさまがこんなにも愛し合うのをお隠しにならないとは……。 まぁ、このお二人ならどれだけ愛し合っても、クリスティアーノさまとトモキさまのような心配事などは出ないから安心なのだが……。 私はドキドキしながら、クリスティアーノさまの部屋の前でただ待つしかなかった。 それから数時間が経って、ジョバンニさまとタツオミさまがクリスティアーノさまのお部屋の前に来られた。 「どうだ? 二人はまだ出て来ないのか?」 「はい。ニコラス医師からは昼になっても出て来ないようなら強行突破で中に入るようにと指示を受けているのですが……」 「昼まで? あと1時間もないな……」 心配そうに扉を見つめるジョバンニさまの肩を優しくお抱きになるタツオミさまのご様子に、こちらは心配はなさそうだと安堵していると、胸ポケットがブルブルと震えた。 これは寝室のベッドにあるベルを鳴らした証。 ようやくお声がかかったと急いで扉を叩き、中に入ると寝室の前で茫然と立ち尽くすクリスティアーノさまのお姿があった。 「どうなさったのですか? トモキさまはご一緒ではないのですか?」 「……悪いが、ニコラスを呼んでくれ。トモキが熱を出しているのだ」 「――っ!! お熱、でございますか?」 私はすぐに部屋の前にいた騎士にニコラス医師を呼ぶように声をかけ、寝室に足を踏み入れた。 寝室中に漂う独特なあの蜜の匂いにむせ返りそうになりながら、ベッドに目をやると夜着を身に纏ったトモキさまがぐったりと横たわっているのが見える。 その顔に血の気がなく、まるでここに来た時のような顔色の悪さに思わず身震いしてしまう。 「クリスティアーノさま……これは一体どういうことでございますか?」 「いや、私もここまでするつもりではなかったのだ。だが、ついトモキの美しさに箍が外れて……」 「つい、ですと? そんな言い訳が通るとでもお思いですか? ニコラス医師からもジョバンニさまからもご忠告を受けられたはずです! クリスティアーノさまのその頭は空っぽでございますか? トモキさまとの体格差をもっとお考えください!!」 「マイルズ……そこまで言わずとも……」 「何を仰っているのですか! このトモキさまのお姿を見てもまだ言い訳を仰るのですか?」 「いや、悪い……。申し訳ないと思っているよ」 「でしたら、ニコラス医師の診察が済みますまで、トモキさまにはお触れにならないように!」 クリスティアーノさまをこんなにも叱りつけたのはいつぶりだろう? 幼い時でさえ、こんなにも仕方ことはなかったのではないか。 それほどまでに私はトモキさまの変わり果てた姿に心が締め付けられる思いだった。

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