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胸騒ぎと嫉妬

<sideジョバンニ> 寝室に入っていく団長を見送りながら、私は胸が騒ついていた。 いくら待ち望んだトモキさまとの交わりが巡ってきたとはいえ、まだ回復したてであんなにも身体の小さなトモキさまに無体な真似などするわけがない。 それにあれほど忠告したのだ。 団長も理解していることだろう。 大丈夫。 大丈夫。 そう必死に何度自分に言い聞かせても、どうしても胸の騒めきはおさまることがなかった。 寝室の扉が開かれた時、トモキさまはどうなっているだろう。 元気な姿を見せてくれるだろうか……。 いつもの団長なら、ここまで心配はしなかった。 けれど、なぜか心配でたまらないのは、トモキさまがあまりにも何も知らないからだ。 ああ、もっとちゃんと説明しておけばよかった。 もっと、団長に言い聞かせておけばよかった。 それが非礼だと言われても、トモキさまのために私はやるべきでなかったか。 私はそんな後悔の念に早々と駆られてしまっていた。 「ジョバンニ……どうしたのです?」 「あっ、ごめんなさい。タツオミ。なぜかひどく不安になってしまって……」 「智己のことですか?」 「いえ、団長のことかもしれません」 「かもしれない?」 「いえ、自分でもよくわからないのですが、なぜか妙な胸騒ぎがして……」 「大丈夫ですよ。クリスさんほど智己のことを考えてくれている人はいませんから。それよりもジョバンニ……あなたに少し話をしておきたいことがあるのです」 「話をしておきたいこと? それはなんでしょう?」 タツオミのなんともいえない表情が気になって仕方がない。 私は知らぬ間に何か失態を犯してしまったのだろうか。 「ここではなんですから、部屋に戻りましょう」 「は、はい」 タツオミに手を引かれ客間に戻る間もドキドキが止まらなかった。 ソファーに案内され座ると、タツオミがピッタリと寄り添って腰を下ろしてくれたから、嫌われているというわけではなさそうだ。 では一体何? 気になりながらもタツオミの方から話してくれるのを待っていると、タツオミは私の目を見ながらゆっくりと口を開いた。 「私はジョバンニを愛しています」 「えっ……」 何を言われるかと緊張していたのに、突然の愛の言葉。 嬉しいけれど、どうして急に? タツオミの話の意図が見えなくて、黙って話の続きを待っていると、 「ジョバンニを愛しているから、少し嫉妬をしていました」 「嫉妬?」 「ええ。いえ、すみません、見栄を張りました。少しではなく、かなり嫉妬をしています。今でもずっと……」 「あの、タツオミ……。どうしたんですか? 話の意図が……」 「すみません。混乱してしまって……。私は、あなたをこの腕に抱きながら、あなたと今までに触れ合った者たちのことを想像して嫉妬していたのです」 「え――っ?」 「今までのあなたの相手が聞いただろうあなたの甘い声も、触れたであろう美しい裸も、感じたであろう柔らかな温もりも……あなたの思い出から全て消し去って、私のことで埋め尽くしてしまいたいと、そう思いながらあなたを抱いたのです。あなたを愛しているが故に、あなたを私だけのものにしたくて……。こんな嫉妬まみれの男を愚かだとお思いでしょう?」 「そんなっ」 「いえ。私は愚かな男です。だから、さっきクリスさんにあなたのことを誤解をしているときいて、自分のいいように変換してしまっています。頭をよぎった内容があまりにも私に都合が良すぎて……信じられなくて……だから、あなたの口から聞かせてもらえませんか? あなたにどれほどの経験があろうとも、私は全てを上書きします。だから……」 「タツオミっ!!」 タツオミがそんなにも私のことを思ってくれていたなんて……。 いもしない者に嫉妬まで……。 ああ、私は本当にタツオミに愛されている。 「私の全てはタツオミのものですよ。他の誰一人として、私を知る者はいません。タツオミだけです……」 「――っ!!! ジョバンニっ!!!」 タツオミに強く抱きしめられて、そのまま噛み付くような口付けをされる。 獣のような激しい口づけがこんなにも幸せだなんて……。 そのままソファーに押し倒され、タツオミの手が服の中に入り込んできたところでそっとその手を握った。 「あっ!」 「ふふっ」 私に止められて我に返ったタツオミの表情が可愛い。 「ここじゃ、いやです……ベッドで……」 「――っ!! ジョバンニ、すぐに!」 軽々と抱き上げられ、寝室へと連れていかれる。 そのまま私たちは何度も何度も蜜を飛ばし、愛を確かめ合った。 「ジョバンニ、お風呂に入りましょうか」 「あ、はい」 身体を起こそうとして今回もまたふらついたのをタツオミが優しく支え、抱きかかえてくれた。 「すみません。あまりにも嬉しくてつい箍が外れてしまいまして……」 「ふふっ。いいんですよ。タツオミに求められるのは私も嬉しいですから」 「ああ、ジョバンニ……そんなに優しい言葉をかけられたら調子に乗ってしまいますよ」 「ふふっ。でも、本当です。タツオミがどうしようもないほど私を求めてくれるだけで身体の奥が疼くんですよ。私たち、本当に相性がいいんですね」 「――っ、それ以上聞くとまた暴走しそうになりますから」 「ふふっ。タツオミったら」 優しく身体を清められ、抱きしめられながら湯に浸かると身体の奥がじわじわと温まって気持ちがいい。 うっとりとタツオミに身を預けていると、 「そういえば、ジョバンニ……」 と尋ねてきた。 「なんですか?」 「いえ、あの時妙な胸騒ぎがすると言っていたでしょう? それは落ち着きましたか?」 「あ――っ!」 「ふふっ。忘れていたなら大丈夫ですよ、きっと」 「そう、ですね……。そう思っておきます」 タツオミにはそう言ったけれど、私の心にはまた騒めきが戻ってきていた。

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