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決して離れない
<side龍臣>
先日、クリスさんに仕立ててもらった服に身を包み、リビングでジョバンニが出てくるのを待つ。
一緒に着替えようと誘ったのだが、先に着替えてくださいと言われてしまったのだ。
よくはわからないが、王族としての格好があるのだろうな。
私の想像するような王族の格好だろうか?
ジョバンニのように美しい人が正装に身を包んだらさらに美しくなるだろう。
登城して他の者の目を惹くだろうから、よからぬ者たちから守らないとな。
ガチャっと寝室の扉が開き、条件反射のようにそちらを向いた瞬間、心臓が止まるかと思った。
「どうですか? タツオミ」
「あっ……えっ、これは……っ」
「ふふっ。驚きましたか?」
「それはもう! あの、どうして私とお揃いなのですか?」
そう。
私が驚いたのは、ジャケットが私のと同じ薄紫色だったから。
「これは私の色なのです。王族は生まれた時に色を与えられ正装する時にはその色を身につけることとされているのです。王位から離れるほどにだんだんと薄くなりますから、私が王族といえどもどれだけ下の方かはこれでわかるはずです」
同じ王族でも色で身分わけがされているというわけか……。
下位だということで今まで嫌な目に遭ったりしたこともあったのだろうか?
ジョバンニのことだ、私がどう思われるかを心配してくれているのかもしれないな。
私はジョバンニと揃いだというだけで嬉しくてたまらないのに。
「タツオミとお揃いなのは、私たちが夫夫だという証なのですよ。だからトモキさまも団長の色であるロイヤルブルーの上着を身につけているはずです」
「そうだったのですね。ジョバンニと揃いのジャケットなんてとても嬉しいです」
「すみません、私がもっと身分が上ならもっとしっかりした色を与えられたのでしょうけど……」
「何を言っているんですか? 私はこの色が大好きなのですよ」
私がどこに店を構えようかと探していた時に通りかがった神社にそれはそれは美しい藤棚があり、それに惹かれるように近くに店舗を借りたんだ。
そこならいつでも藤の花を見に行けると思って。
そのときはまさかこんな縁があるとは思いもしなかったけれど、もしかしたらその時から運命は始まっていたのかもしれないな。
「えっ? 本当ですか?」
「ええ。私たちの世界に藤という花があって、その花の色から藤色と呼ばれているのがこのジャケットの色なんです。花にはそれぞれ花言葉というものが存在しているのですが、藤の花言葉はなんだと思いますか?」
不思議そうなジョバンニの表情が可愛い。
「ふふっ。『決して離れない』というんですよ。まるで私たちみたいだと思いませんか? ね、だから私はこの色をジョバンニと身に付けられて幸せなんです」
「タツオミっ!!」
少し涙ぐんだ表情で私に抱きついてくるジョバンニ。
「私、初めてこの色が好きになりました……」
耳元でそう囁いてくれるジョバンニが愛おしくてたまらない。
この藤色に誓って、私は決してジョバンニから離れたりしないぞ。
<sideクリス>
「いってらっしゃいませ」
マイルズに見送られ、2台の馬車で城に向かう。
トモキは皆で一緒に乗りたそうだったが、二人ずつ乗った方が都合がいい。
特に私とタツオミには、な。
「わぁっ!! 人がいっぱいですね!!」
トモキは初めての外出に興奮が止まらないようだ。
私も初めてトモキたちの世界を歩いたときは不思議なもので溢れかえっていて驚きの連続だったから、トモキの気持ちはよくわかる。
ただ一つ問題なのは外を見て、無邪気に笑顔を見せることだ。
外を歩いている者たちが、トモキの笑顔をみて勘違いしかねない。
だから、トモキを膝に乗せ、私も一緒に窓の外を見て周りに牽制をする必要がある。
現にもうすでに十数人に威圧を放ったがこれからまだまだ増えるだろう。
陛下と父上に会うまでに、神経がすり減りそうだ。
王城入り口の門を過ぎ、馬車は玄関に着いた。
トモキを抱き上げたまま馬車を降りると、玄関で並んでいた近衛騎士たちが一斉に整列をする。
「わっ!」
その姿に驚いて、私に抱きついてくるトモキが可愛い。
「トモキ、怖がらなくていい。私たちを歓迎しているのだよ」
「そう、なんですね。驚いてしまってごめんなさい」
トモキが騎士たちに視線を向け謝ると、騎士たちはトモキを見つけたまま口をあんぐりと開け微動だにしない。
「あ、あの……クリスさん……」
謝り方が悪かったのだろうかと不安そうな顔で私を見るトモキに
「大丈夫だから気にするな」
と優しく頭を撫で、騎士たちを睨みつけた。
「お前たち、私の伴侶が声をかけたのに、無視とは何事だ?!」
「――っ!!! し、失礼いたしました!」
また一斉に頭をさげる騎士たちを見て、トモキは目を丸くしているがもうどうしようもないな。
後はジョバンニに任せるとするか。
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