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タツオミの好きな花

<sideジョバンニ> 王城玄関でタツオミにエスコートされながら馬車を降りるとすぐに 「ジョバンニ、この者たちの挨拶がなっていないぞ」 とお怒りモードの団長の声が飛んできた。 「どうかなさったのですか?」 「どうもこうも――って、おおっ! タツオミ……よく似合ってるな!」 団長は私たちの姿を見るや否や、ついさっきまでのお怒りモードがあっという間に霧散し、トモキさまを抱きかかえたままこちらに来て嬉しそうな表情を見せた。 「どうだ? ジョバンニの姿を見て驚いたろう?」 「はい。かなり驚きましたが、ジョバンニと揃いなんて嬉しい限りです。クリスさんのお召し物もよくお似合いです。智己もクリスさんと揃いだと年相応に見えますね」 「ははっ。そうだろう? 私より着こなしている感じがするよ。トモキは何を着ても似合うからな」 団長は気づいていないかもしれないが、団長のその緩みきった笑顔に周りにいる騎士たちが目を丸くしている。 それもそうだろう。 団長がこんなにもデレデレと惚気るのを今まで誰も見たことがないのだから。 トモキさまが来られて以来、散々見てきている私ですらまだ違和感がある。 まぁ騎士たちから見れば、タツオミと一緒にいる私も同じかもしれないな。 「あの、その色がジョバンニさんの色なんですか?」 団長の腕の中にいるトモキさまが私たちの上着を指し、団長に尋ねる。 「ああ。そうだ。淡い色だが、ジョバンニによく似合っているだろう?」 「はい。とっても! ねぇ、マスター。これってマスターの好きな色ですよね?」 「ああ、そうだ。よく知ってるな」 さっきタツオミが私に話してくれたことだ。 ここでトモキさまに教えていただくことにならなくて安堵している私がいる。 やはりこういう話は、他の人から聞かされるより直接本人に言って欲しいものなのだな。 そんなこともタツオミと一緒になって初めて知った。 「だって、いつもあの神社通るたびにうっとりと見上げてたじゃないですか! だから、好きなんだろうなって思ってたんです」 「あの神社?」 「クリスさんと出会った場所ですよ。夜はすごく暗くて怖いんですけど、藤の花が咲いてる時はすごく綺麗で昼間は好きだったんですよね」 「そうだったのか。それほど美しいなら、私も見てみたかったな。タツオミもそんなに好きな花を見られなくなって残念だろう?」 ニヤリと私の方を見やりながらそんなことを言う団長の言葉に、タツオミはにっこりと笑って、 「あの藤の花より、もっと美しい花を手に入れましたから私はもう大満足ですよ」 と私の腰に腕を回して抱き寄せてくれた。 「ははっ。そうか、そうだな。さぁ、そろそろ拝謁に行くとしようか。タツオミ、ジョバンニを頼むぞ」 「はい。お任せください」 タツオミの頼もしい声に嬉しくなりながら、こちらを見て茫然としている騎士たちに睨みを利かせておいた。 ひいぃーっと恐れ慄いた様子の騎士たちを横目に私たちは陛下との拝謁に向かった。 「私たちの挨拶が終わったら、ジョバンニとタツオミに声をかけるからしばらくここで待っていてくれ」 「承知しました」 団長がトモキさまを抱きかかえたまま、部屋の中に入っていくのを見送り、私はタツオミと声がかかるのを待っていた。 「少し緊張しますね」 「ふふっ。陛下も公爵さまもタツオミがこの世界にきたことすらご存知ないので驚かれるでしょうが、大喜びで迎えられるはずですから心配はいりませんよ」 「ジョバンニがそう言ってくれるだけで安心します。あなたは本当に私にとって永遠に枯れない美しい花です」 「タツオミ……っ」 そのまま抱きついてしまいそうになったのを必死に押し留める。 すると、不思議そうな表情でタツオミが私を見つめる。 「抱きついてくれないのですか? ジョバンニから抱きついてきてくれるのは私にとって至福のひとときなのに……」 「我慢しているのです。そのまま、身体の奥にまできて欲しくなってしまうので……」 「くっ――!! もう、本当にあなたは……どれだけ私を翻弄するのですか?」 「タツオミを翻弄するなんてそんな……っ。私はただ思ったことを言っているだけですよ」 「くっ……だからそれが――っ、もう本当にあなたが可愛すぎて困る」 「んっ!」 不意打ちに口付けされて、身体がピクリと震える。 扉を隔てた向こうに陛下や皆さまがいらっしゃるというのに、こんなに感じてしまうなんて……。 私の方こそタツオミに翻弄されているようだ。

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