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陛下への拝謁
<sideクリス>
ジョバンニとタツオミを控えの間に残し、先に拝謁の間に進んだ。
「トモキ、少しの間だけ下ろすからな」
中央に進んだところで、トモキを腕から下ろし、ピッタリと隣に寄り添わせる。
「いいか、トモキ。陛下が顔を上げるように言うまでは頭を下げているんだぞ」
「わかりました」
私の真似をして片膝で立ち、頭をさげ陛下がやってくるのを待っているトモキが実に可愛らしい。
しっかりとこの目に焼き付けておきたいが、私も頭を下げていないといけないから仕方がない。
しばらく待っていると、奥の扉が開く音が聞こえた。
足音が二種類あるから、陛下と一緒に父上も来ているようだ。
陛下たちが椅子に腰をかけ、
「クリスティアーノ、隣におられるのが異世界より来られた救世主殿か? 顔をあげよ」
と呼びかけられた。
その声にトモキは緊張からか、一瞬身体を震わせたが
「大丈夫だ」
と囁いてやると、ゆっくりと顔をあげた。
「おおっ!!」
「なんと――っ!!」
トモキが顔を上げた瞬間から、陛下も父上も私のことなど一切目に入っていない。
そんなことわかっていた。
そうわかっていても挨拶をしないわけにはいかない。
「ご無沙汰をいたしまして申し訳ございません。陛下におかれましては――」
「挨拶など良い! それよりもクリスティアーノ、早く救世主殿を紹介してくれ!」
ああ、やはりな。
心の中で深いため息を吐きながら、私はトモキの腰に腕を回しぐっと抱き寄せた。
「彼はトモキ・ナナセ。私の大切な愛しい伴侶です」
「トモキ、とな? もっとよく顔を見せてくれ。こちらに来てくれ」
その言葉にトモキが立ちあがろうとしたのを制して、
「陛下。トモキはまだ病み上がりでございます。一人でそちらにいかせるわけには参りません」
と告げると、陛下の隣にいた父上が眉を顰める。
「クリスティアーノっ! お前、陛下に向かってそのようなことを――っ!」
「ははっ、ジュリアーノ。良い、良い。クリスティアーノがかなり過保護に溺愛していると、こちらまで噂が流れてきていたが誇張ではなかったようだな。まさか、其方のそんな姿を見られるとは思いもしなかった」
笑って返してくれるとはさすが、陛下。
私の態度にも寛大な対応をしてくださる。
「では、クリスティアーノが救世主殿を連れてきてくれ」
「はっ」
トモキをそのまま抱きかかえようとすると、
「クリスさん、いいんですか?」
と不安そうに見つめる。
「いいんだ。陛下も仰っていただろう? 私と一緒に行こう」
「はい」
まだ少し緊張しているトモキを抱き上げ、そのまま陛下と父上の元に連れて行く。
「其方がトモキか」
「は、はい。トモキ・ナナセと申します。国王さまにお目にかかれて大変嬉しく思っています」
「おおっ、素晴らしい挨拶だな。それにしてもまだ幼く見えるが、クリスティアーノ。お前まさか……」
「ご心配なさらずに。トモキは成人を疾うに超えております」
「まことか?! こんなにも可愛らしいのに成人しておるとは……異世界は皆そのようであったのか?」
「トモキが特別なのです。陛下は私の伴侶に何かご不満でもございますか?」
「い、いや、そのようなつもりはない。あまりにも美しいから気になっただけだ。不快にさせてしまったのなら申し訳ない。それから……」
陛下は詫びの言葉を述べると、続けて
「それからトモキ、其方にはこの愚弟が辛い思いをさせてしまったようだな。兄として心から詫びをいう」
と頭を下げた。
一国の王がトモキに頭を下げる姿に驚きを隠せないが、それほど陛下も心を痛めてくださったのだろう。
陛下の隣で父上も一緒に深々と頭を下げている。
「そんな――っ、あの、頭を上げてください。僕……確かにクリスさんと離れ離れになった時はとても辛くて……生きている意味さえなくなったって思ってましたけど、今、こうしてクリスさんのそばにいられるので……あの時のことは忘れました。だから、国王さまも……それからクリスさんのお父さまも謝らないでください。それに……ジョバンニさんのためにも、僕とクリスさんが離れることも必要だったと思ってるので……だから、大丈夫です」
「なに? ジョバンニのために? ジョバンニに何かあったのか?」
陛下はタツオミのことを知らないのだから突然ジョバンニの話が出て驚きしかないだろうな。
さて、そろそろジョバンニとタツオミを呼ぶとしようか。
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