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二人の救世主
<sideクリス>
「控えの間にジョバンニが来ておりますので、こちらに呼んでもよろしいでしょうか?」
「ああ。すぐに」
「承知しました」
私はトモキを抱きかかえたまま、陛下の了承を得て控えの間に向かった。
「ジョバンニ、陛下がお呼びだ」
「はい」
その顔がほんのり赤く見えるのは見間違いじゃないだろう。
まぁ、伴侶と二人きりで部屋にいて、そうなってしまうのは分からんでもない。
だが、陛下との謁見を前にタツオミも意外と肝が据わってる。
ますます騎士団に欲しい人材だが、ジョバンニが手放さないだろうな。
ジョバンニの方からタツオミの腕を組み、私のあとについて陛下のいる部屋に入っていく。
ジョバンニの色を身につける男の存在にすぐに気づいた陛下と父上は、あまりの驚きに声も出ないようだ。
今までのジョバンニの様子を見ていたら当然だ。
私と同じくらい、他人に興味を示さず縁談の話にも耳を傾けないくらいだったジョバンニが嬉しそうに見知らぬ男の腕を組んで向かってくるのだから、あれが本当にジョバンニなのか? と目の前で起こっていることですら信じられないに違いない。
「じょ、ジョバンニ……其方……」
「はい。ご挨拶が遅れまして大変失礼いたしました。私は、このお方と正式に夫夫となりましたことをご報告いたします」
「な――っ!! そ、それはまことか?」
「はい。陛下の御前で嘘偽りなどもうしません」
そうキッパリと答えるジョバンニは、なんとも誇らしく見えた。
<sideジョバンニ>
「そ、それでその者は一体どこの誰なのだ? 見覚えがないが、騎士団の者か?」
「それは――」
「ジョバンニ。私から挨拶をさせてください」
幾度か拝謁したことのある騎士たちでさえ陛下の御前では緊張するものだというのに、タツオミは実に堂々としていて男らしい。
さすが私が心から愛した人だ。
「ではタツオミ。お願いします」
私の言葉にタツオミは優しい笑顔を浮かべてお礼を言うと、今度は真剣な表情で陛下に跪いた。
「お初にお目にかかります。私はタツオミ・ノガミと申します。そちらにいる智己と共にこの世界に参りました。何よりも先に国王さまに御目通り願って、ご挨拶しなければいけないにも関わらず、遅くなりまして大変失礼をいたしました。先程、ジョバンニからもご報告いたしました通り、私とジョバンニは先頃正式に夫夫となりましたことを私からもご報告させていただきます。ジョバンニのことは私が永遠に幸せにいたしますので、どうぞご安心ください」
深々と頭を下げるタツオミを見ながら、私は感動に震えていた。
すぐにでも抱きついてしまいそうなくらい、タツオミが格好よくておかしくなってしまいそうだった。
けれど、私よりももっとおかしくなっていた人たちがいた。
「まさか……救世主殿が……二人も……しかも、すでにジョバンニの伴侶だと? そんなことが――っ! ああっ、なんてことだ! 我が国に救世主殿が二人も! なんと素晴らしいことなのだ!!! そうだろう? ジュリアーノ!!」
「はい。本当に!!! なんて素晴らしいことでしょう!!」
おかしくなるのも無理はない。
一度に二人もの救世主が現れるなど、この国の歴史の中でも初めてのことなのだから。
「タツオミ。よくぞ我が国に来てくれた。ここで末長くジョバンニと仲良く暮らしてくれ」
「はい。もちろんでございます。私はジョバンニだけを永遠に愛し続けると誓います」
「おおっ、国王である私に誓うとは……其方の気持ちは本物だな。ジョバンニ、素晴らしい伴侶と巡り会えて本当によかった。私は其方が一生一人で生きていくのだと心配しておったのだが、タツオミと出会うのを待っておったのだな。クリスティアーノといい、其方といい、素晴らしい伴侶と出会えて本当に良かった」
陛下は本当に心配してくださっていたからな。
いい報告ができて本当に良かった。
<sideクリス>
「タツオミ、つかぬことを聞くが……トモキは本当に成人しているのか?」
父上の突然の質問にタツオミは一瞬戸惑った様子だったが、
「えっ? ああ、はい。ご心配でしょうが、疾うに成人はすぎております。ご安心ください」
すぐに質問の意図を理解したようで笑顔で答えていた。
「ならば良かった」
安堵の表情を浮かべていたが、どうも気に入らない。
「父上、私を疑っておられたのですか?」
「いや、疑っていたわけではないが、少し心配になっただけだ。許せ」
「はぁーっ。父上、トモキが可愛いからと言って私に無断で連れ出すようなことは決してしないと約束してください」
「な――っ、トモキは私の息子でもあるのだぞ。少しくらいは……」
「いいですか? 父上の息子である前に私の大事な伴侶です。トモキに関することは全て私の許可をお取りください。いいですね?」
父上といえどもトモキのことは勝手なことは決してさせない。
そこはしっかりと言っておかないとな。
暴走する父上は最初から釘をさしておかないと!
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