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トモキの望み

<sideアンドレア> この国の歴史において、異世界よりこちらに救世主殿が来られたと言う事実は知っていたが、まさか自分が統治しているこの時代に現れるとは夢にも思っていなかった。 いろんな運命が重なり、救世主殿は我が国の騎士団長であり、私の甥でもあるクリスティアーノと正式に夫夫になったようだ。 それはすなわち、この二人が交わりを持ったということだ。 このたび、ようやく救世主殿との対面が決まり、緊張していた私の目に飛び込んで来たのは見目麗しい幼な子。 そう。 この見目麗しい救世主殿は、私の目にはどう見ても子どもとしか思えなかった。 いくら救世主殿といえども、我が国の騎士団長であり、そして王家の血を受け継ぐ公爵家の嫡男であるクリスティアーノが、未成年と交わるなどもってのほか。 流石にそれはクリスティアーノもわかっているのだから、決してそのような愚かな罪は犯さないとは思うが、如何せん見た目がどうしても幼子にしか見えないのだから心配になって当然だ。 クリスティアーノに尋ねれば当然成人だと答えるが、それが真実かはクリスティアーノにしかわからない。 さて、どうしたものかと思っていると、クリスティアーノが控えの間にいるというジョバンニを部屋に連れてきた。 王族であり、クリスティアーノの部下でもあるジョバンニが全く無関係だとは言わないが、正直なところ、ここで呼ぶ必要があるのだろうかと思ってしまったのは事実だ。 しかし、クリスティアーノの後をついて部屋に入ってきたジョバンニの隣にはジョバンニの色と同じ上着を身につけた逞しい男性の姿があった。 同じ色を身につけているということは、ジョバンニとこの青年はすでに夫夫だと言うことだ。 なんと立派な青年だろう。 凛々しい容貌も、凛とした立ち姿も、身に纏った雰囲気まで全てにおいてクリスティアーノと引けを取らない。 このような青年が我が国の貴族にいただろうか? 王族と言っても誰しもが納得するほどの佇まい。 だが、我が一族にはいないのは断言できる。 すると、青年本人の口からとんでもない事実が知らされた。 クリスティアーノの伴侶である救世主殿と一緒にこの世界に来たのだと。 ということは、この青年・タツオミも救世主ということであり、我が王家が大切に守らねばならぬ相手。 しかし、タツオミはすでに王族であるジョバンニと夫夫になったというのだから、すでに我が王族の一員となっている。 我が王家にとってこれ以上嬉しいことはない。 そうなれば心配はただ一つ。 クリスティアーノの伴侶であるもう一人の救世主殿が本当に成人であるかどうかだけだ。 彼にそれを尋ねてみようかと思ったと同時に、隣にいたジュリアーノがタツオミに尋ねた。 本当に成人をしているのかと。 彼は多少面食らった様子だったが、にこやかに成人していると教えてくれた。 その表情にも言葉にもウソは感じられない。 私はようやく胸を撫で下ろした。 「クリスティアーノ、トモキ・ナナセを正式に夫夫として認める。そして、ジョバンニ、タツオミ・ノガミを正式に夫夫として認める」 二組にそれぞれ宣言をしてやると、救世主殿たちは嬉しそうにそれぞれの伴侶に向けて笑顔を見せた。 ああ、実に幸せそうだ。 まさかクリスティアーノとジョバンニにこんなにも素晴らしい伴侶が現れるとは思っていなかったからな。 「さて、トモキもタツオミも王族の一員となり、そして私の家族となったわけだが……これから先どうしていきたいか要望があったら言ってくれ。どんなことでも叶えよう。まずはトモキ。何かしたいことや、欲しいものはないか?」 「あの、僕……」 「なんだ? 何でも望むままに言うが良い」 トモキは何か言いたげにしていたが、クリスティアーノの様子が気になっているようだ。 よほど言いにくいことなのだろうか? 「トモキ、クリスティアーノのことは気にせず思っていることを教えてくれ」 そういうと、クリスティアーノも何やらトモキの耳元で話したようだ。 意を決した様子で口を開いた。 「僕は……以前、あちらの世界では医師を志していました。事情があって途中で諦めなくてはならなくなりましたが、今でも医師になりたいと思う気持ちは変わりません。もし、望めるなら……僕は医師になりたいです。そして、クリスさんと一緒に騎士団で働けたら……これ以上望むことはありません」 「トモキ……」 「クリスさん、勝手なこと言ってごめんなさい。でも、僕……ずっとクリスさんのそばにいたいから……」 「ああ、わかってる。トモキの気持ちは痛いほどわかっているよ」 クリスティアーノの方がトモキを愛する気持ちは上だと思っていたが、どうやら私の勘違いだったようだな。 クリスティアーノも同じくらいトモキに愛されているようだ。 「トモキ……私はトモキが医師となってクリスティアーノと共に騎士団で働いてくれるのならば、これ以上嬉しいことはないぞ。こちらからお願いしたいくらいだ」 「えっ、じゃあ……」 「ああ、トモキが騎士団で医師として働くことは私が認めよう。もし、もっと医師として勉学に励みたいのであれば、ニコラスに頼むがいい。彼は我が国で一番の医師だからな」 「わぁっ! ありがとうございます! 国王さま!!」 花が綻ぶような笑顔を見せるトモキに、あらぬところが昂りそうになるが隣で威圧を放っているクリスティアーノの姿に一気に萎えてしまう。 これでも私は国王なのだがな……。 国王に威圧を放つとは……クリスティアーノ、敵に回したくない相手だな。

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