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父へのおねだり

「今日から私も屋敷に戻るぞ」 「えっ? 父上、戻ってこられるのですか?」 「なんだ? 帰ってはいけない理由があるのか?」 「い、いえ。そういうわけではございませんが、帰る前にはっきりと約束していただきたいのです」 「なんの約束だ?」 「トモキを勝手に外に連れ出したりしないこと、私にいないときにトモキと二人の時間を過ごさないこと、トモキに負担をかけるようなことはしないこと、何かしようとするときは必ず私の許可を取ること。いいですか?」 父上は悪い人ではないのだが、思いつくと直感的にすぐに行動に移してしまう。 それが良い場合に転がることもあるが、トモキに関して言えば危ないことになる未来しか見えない。 「クリスティアーノ、そのような約束事を私に強いるとは信用していないのか?」 「いいえ、父上。信用の問題ではありません。いいですか? トモキに何かあればこの国の存続に関わるのです。父上もご存知のはずです。トモキがこのビスカリア王国に来てから、賊の侵入がなくなり平穏が戻ってきたのを。トモキが安心安全に暮らしていくことが、この国を幸せに導くことなのです。ですから、皆でトモキを守る必要があるのです。そのためにはこの約束事をお守りいただく必要がございます」 「だが、私としても待ち望んだクリスティアーノの伴侶だ。少しくらいは仲良くしたいと思っても――」 「ジュリアーノ、わがままを言うでない」 陛下は私と父上の話に割り込みむように声をかけて下さった。 父上は陛下の言うことなら聞いてくれるから、陛下が味方についてくれるのは本当に助かる。 「兄上……っ、ですが……」 「クリスティアーノの言うとおりだ。もし何かあれば、この国は大変なことになる。それにトモキを見てみろ。あんなにか弱く小さな子だ。皆で守らねばならん。そうでなくともトモキにはこの地はまだ不慣れな土地だ。せめてもう少し慣れるまで、クリスティアーノの約束事を守って、トモキが慣れたらまた考えていけば良いのではないか?」 「そう、ですね……わかりました。クリスティアーノ、兄上もそう仰っているし、お前の言う通りにしよう。トモキを勝手に連れ出したりしない。必ずお前の許可を取ると約束する。それでいいか?」 「父上、ありがとうございます。それでは、一緒に帰りましょうか」 「おおっ! ありがとう。トモキ、私も一緒に帰れるのだぞ。嬉しいと思ってくれるか?」 父上は私の隣にいるトモキに笑顔を向ける。 トモキはなんと答えるだろうかと思っていると、トモキはそれはそれは嬉しそうに微笑んだ。 「はい。とっても嬉しいです」 「おお、そうか。トモキは素直で可愛いな」 「あ、あの……僕、公爵さまにお願いがあるんですけど……」 「私にお願い? ああ、なんでも言うが良い。なんでも買ってやろう」 トモキが父上にお願い? トモキは私にでさえ、物をねだったりはしないのだが、父上になんの願いがあると言うのだろう? 「あの……僕、公爵さまのこと……『お父さま』と呼びたくて……『お父さま』と呼んでもいいですか?」 「――っ!!」 「――っ!! なんと……っ、ああ。もちろんだとも。トモキに『お父さま』と呼んでもらえるとは……そんな嬉しいこと、こちらからお願いしたいくらいだ!」 「わぁっ!! 嬉しいです!!」 父上を『お父さま』と呼びたいと言うのが、トモキの願いか……。 本当に欲のない子なのだな。 もうこれだけで父上だけでなく、陛下もトモキをさらに気に入っただろうな。 「あ、あのトモキ……私のことも国王さまでなく、『アンドレア』と名前で呼んでくれていいのだぞ」 「えっ、でも……そんなこと……っ、クリスさん、いいんですか?」 不安げな様子で私を見つめるトモキに 「陛下がそう望んでおられるのだ。そうお呼びしたらいい」 と言ってやると、少し緊張しつつもにっこりと笑顔を見せながら、 「アンドレアさま」 と呼びかけると、陛下は嬉しそうにしていた。 もしかしたらこの国で一番強いのはトモキかもしれないな。 そんなことを思ってしまう。 父上と一緒に屋敷に戻る。 その馬車の中でトモキを抱きかかえて座りたいと父上が言い、言い争っている間に私の腕の中でトモキが眠ってしまい。渋々と言った様子だったが、トモキを抱いた私の隣にピッタリと座り、ずっとトモキの寝顔を見つめていた。 本当は寝顔すら見せたくなかったが、抱かせるよりはマシかと諦めたのだ。 それにしても馬車で父上と隣同士に、しかもこんなにくっついて座るなどいつぶりだろう? 不思議な時間が流れる中、ようやく馬車は屋敷に着いた。 到着してすぐ、ジョバンニと龍臣はすぐに家を出る支度を始めた。 どうやら今日のうちにあの新居に移るようだ。 マイルズや他の使用人たちの手を借り、あっという間に荷物をまとめた二人はまた馬車に乗り、屋敷を出て行った。 その間もずっとトモキは眠っていたから起きたら寂しがるだろうが、近いうちに新居に遊びに行ってみよう。 タツオミとゆっくり話せる時間ができるというのもいいな。

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