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それぞれの甘い時間

<side龍臣> 「ジョバンニ、こんなに早く出てきて本当に良かったのですか?」 城から戻ってまだ1時間も経っていないだろう。 あれだけ世話になっておきながら満足に挨拶もせずに出てきてしまったが、大丈夫だろうかと今更ながら心配になる。 「ええ。バーンスタイン公爵もお戻りになったことですし、家族水入らずでお過ごしになりたいでしょうから」 にっこりとそう微笑まれてホッとする。 確かに、あの公爵さまの様子では智己と少しでも長く過ごしたそうだったからな。 我々がいれば、気を遣わせてしまうかもしれない。 「ああ、そうですね」 「それに……私がもう我慢できなかったのです」 「えっ? 我慢?」 「ええ。ずっとタツオミと二人だけで暮らしたいと望んでましたから……だから、さっきタツオミが陛下に私たちの家を望んでくれた時、すごく嬉しかったのですよ」 「ジョバンニっ!」 馬車の中で強くジョバンニを抱きしめる。 このままキスをしたいが、それだけで抑えられる自信がない。 だって、私もずっと思っていたのだから。 「タツオミ……口づけを、してくれないのですか?」 「ジョバンニ……っ、そんなに煽らないでください。ここで口付けてしまったら、それこそ我慢できません。あなたの艶のある声を誰にも聞かせたくない」 「ふふっ。タツオミったら。じゃあ、今は我慢します。だから、家に入ったらすぐに私を愛してください……いいですか?」 「くっ――! ああっ!」 ジョバンニの細くて長い指が服の上からスッと私のに触れる。 それだけで、身体の中心が昂っていくのがわかる。 「ふふっ。もうこんなに昂ってくれているのですか?」 「あなたにそこまでされて昂らないはずがないでしょう。ジョバンニ……覚悟しておいてくださいね」 「――っ! はい……」 もうお互いがお互いを求めているのが見つめているだけでわかる。 ジョバンニの目の奥が私を欲しているのだ。 同じように、いや、それ以上の思いで私もジョバンニを欲している。 公爵邸から我々の新居まですぐそこだというのに、この時間も待ちきれないほど長く感じてしまっていた。 荷物を運んでもらう間、私の隣に並んでいたジョバンニの手をそっと握り、指を絡ませて後ろに隠す。 「んっ……!」 あれだけ煽ってきていたくせに、人前で手を握られたことが恥ずかしいのか照れているジョバンニが可愛い。 公爵家からの使用人を見送りパタンと扉が閉まった瞬間、私はジョバンニを抱き上げそのまま唇を奪った。 「んんっ……っん」 ああ、これからはずっとここで二人なんだ。 その開放感に私たちはしばらくの間、玄関で口づけを交わし続けた。 「ジョバンニ……このまま、愛しても?」 「ええ。やっと邪魔されずにタツオミと過ごせるんですね」 「ああ、本当に」 階段を上り、寝室へ向かう。 毎日掃除をしていたと聞いていた通り、シーツも何もかも綺麗な状態で助かる。 もうすでに愛し合ったこともあるというのに、まるで初めての時のように緊張してしまう。 お互いに服を脱がせ合うのももどかしく感じて、つい笑ってしまう。 「タツオミ……」 「ああ、すみません。私たち、余裕がないなと思ったらつい……」 「ふふっ。そうですね。そんなにがっつかなくてもこれからはずっと二人なのに……」 「今日はゆっくり時間を忘れて愛し合いましょう」 「ええ、タツオミ……」 カーテンの隙間から漏れる柔らかな光を部屋の中に感じながら、ジョバンニの服を脱がし、白い肌を晒していく。 この前鎖骨につけたキスマークはうっすら残っている程度。 これからはもっと見える場所につけて私のものだとアピールしておくとするか。 首筋に唇を這わせ、チュッと吸い付くとジョバンニの白い肌にすぐ赤い花が咲く。 この花を咲かせられるのは私だけ。 そう思うだけで、心が優越感でいっぱいになっていく。 「ジョバンニ……愛しています」 「タツオミ……私も、愛しています」 こんなにも愛しい人に出会わせてくれた神に感謝しながら、私はジョバンニを押し倒した。 <side智己> 「うーん」 「トモキ、目が覚めたか?」 「あれ? 僕……」 「久しぶりに外に出たから疲れたみたいだな。一応、ニコラスに診てもらったがゆっくりと休養するようにと言っていた。まだ寝てても大丈夫だぞ」 「少し喉が渇いちゃって……」 「ああ、そうだな」 クリスさんはベッドの横にあるグラスを手に持ってそのまま自分の口に運んだ。 そして、水を口に含むと今度はそれを僕の口に移して飲ませてくれた。 ゆっくりゆっくり流れ込んでくる適温の水が身体にじわじわと染み渡っていくのがわかる。 3回に分けて飲ませてもらってすっかりのども潤った。 「おいしかったか?」 「はい、とっても」 「お腹も空いているなら、すぐに食事にしようか?」 「うーん、もうちょっと後で大丈夫です。今はクリスさんのそばにいたいです」 「――っ、そうか、じゃあしばらくこうしていよう」 優しく腕の中に抱かれて、クリスさんの鼓動が伝わってくるだけでホッとする。 「起きてクリスさんがいてくれて嬉しかったです」 「陛下にも父上にも挨拶したし私たちは正式に夫夫になったから、もう離れることは決してないぞ」 「嬉しいっ」 クリスさんと離れていたあの期間は心が死んでいたんじゃないかと思うほど、今となっては記憶すらない。 きっと僕はクリスさんと離れたら死んでしまうんだろう。 それくらい僕にはなくてはならない人だ。 「あ、そうだ。トモキ、ジョバンニとタツオミだが……さっき、ここを出て行ったよ」 「えっ、もう、ですか?」 「ああ。あの二人も夫夫になったばかりだからな。二人で過ごしたいんだろう」 「そっか……そうですね」 「トモキが私と二人だけで暮らしたいというのなら、どこかに家を探してもいいがどうしたい?」 僕とクリスさんが二人で……? それはそれですごく楽しそうだけど、でも……。 「僕はここにいたいです。クリスさんだけじゃなく、お父さまやそれにマイルズさんたちもいるし、僕、両親が亡くなってからずっと一人だったから、家族ができて嬉しいんです」 「トモキがそう言ってくれるならそうしよう。父上も、トモキの言葉を聞いたら喜ぶぞ」 「ああ、そっか。一緒に帰ってきたんですね。じゃあ、ご飯の時間も楽しくなりますね」 お父さまと一緒に食事……ふふっ。 こんな嬉しい日が僕に戻ってくるなんて思わなかったな。

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