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寛大な心
<sideクリス>
「トモキ、騎士団の訓練場にいく前にニコラスの診察を受けておこう」
「えっ、でも……もし、ニコラス先生がダメだって言ったら?」
「トモキ……私はトモキを連れていくつもりでいるが、主治医であるニコラスが外出はまだ無理だというならそれは従わなければいけない」
「でも……」
「ここのところ、トモキは食事の量も増えたし、睡眠もよく取れている。今回の診察は外出へのお墨付きをもらうためのものだと思っているんだ。トモキ自身も自分の体調がよくなっていることをわかっているだろう?」
そう尋ねると、トモキは小さいながらも頷いた。
それでも不安そうに見えるのは、ダメだと言われていけなくなった時のことを思っているのだろう。
だが、長時間の外出の前には主治医の診察を受けなければいけないし、ニコラスにもそう言われている。
何かあった時のためというのが一番の目的だが、何よりも診てもらって何もなければそれで安心できる。
「トモキ、心配しないでいい。安心するための診察だ」
「はい。わかりました」
トモキが騎士団の訓練を見にいくのをどれほど心待ちにしていたか、ずっと隣で見てきた私にはよくわかっている。
だからこそ、なんの憂いもなく一緒に楽しみたいんだ。
「クリスティアーノさま。ニコラス医師がお見えになりました」
マイルズの声かけにトモキはびくりと身体を震わせる。
ああ、前にもこのようなことがあったな。
そう、あれはニコラスに初めて会わせたとき。
あの時、トモキは自分の体調が悪いにも関わらず、それが知られると私と引き離されると思ってニコラスの診察を拒否したんだ。
あの時は、ニコラスが決して引き離したりしないと約束をしたから診察をする気になったのだな。
あんなにも悪い状態であったのに……私と一緒にいるために自分の身体を犠牲にしようとした。
そんなトモキだからこそ、どこかに外出するときには事前に診察をするようにとニコラスに言われてしまったのだ。
トモキは私のことになるとすぐに無理をしてしまうから周りが気をつけてやらなければいけない。
「トモキ、心配するな」
そう言って頭を優しく撫でてから、ニコラスに部屋に入るように声をかけた。
「少しご無沙汰しておりましたが、トモキさま……お身体の具合はいかがでございますか?」
「は、はい。あの、すごくいいです。だから……」
「ふふっ。ご心配なさらずとも宜しいですよ」
「えっ?」
「トモキさまのお加減がよろしいのは、お顔を拝見しただけで大体わかります。お顔色が随分とよくなりましたからね」
「じゃあ――」
「ふふっ。あまり急いてはいけません。さぁ、診察をさせていただきましょうね」
私は少し下がって、マイルズとこれからのことを話していた。
しばらく経って、
「クリスティアーノさま。診察が終わりました」
と声をかけられ、トモキのそばに戻った。
「ニコラス、どうだった?」
「はい。先日お城からお戻りになった時からゆっくり休養をなさったようですね。栄養もしっかり取れているようですし、数時間の外出なら問題はないでしょう」
「わぁっ!! じゃあ……」
「はい。お出かけになっても構いませんよ」
ニコラスの言葉にトモキは診察前までの不安げな顔はどこに行ったのかと思うほど、
「クリスさんと一緒に訓練場に行けるんですね!!」
と嬉しそうにはしゃいでいる。
大丈夫だとは思っていたが、ニコラスの口からはっきりと言われるまで少し緊張していた。
ああ、本当によかった。
「ですが、くれぐれもお気をつけくださいね。無理だけはなさらないように」
「はい。わかりました。ありがとうございます、ニコラス先生」
トモキは隣にいる私の手をしっかりと握りながら、ニコラスに礼を言っていた。
こんなにまで、騎士としても私の姿を見たいと思ってくれていると思うだけで私も嬉しくなる。
「クリスティアーノさま。トモキさまが応援なさってくださるからといって、新入団員たちを必要以上に可愛がるのはおやめくださいね」
「そんなことわかっている」
「今はわかっておいででも、その場になるとお忘れになることもございますからくれぐれもお気をつけください」
ニコラスはすっかり私のことをわかっているようだ。
正直言って、あの場でトモキに応援されたらやりすぎてしまうかもしれないという危惧はある。
それくらいトモキにいいところを見せようと張り切ってしまうのだ。
トモキに恥ずかしいところを見せるわけにはいかない。
私の思いはそれだけだ。
「あ、それから……陛下よりお伺いいたしましたが、トモキさまが騎士団の医務室で働きたいと仰っているとか?」
「はい。そうなんです。僕……子どもの時からずっとお医者さんになりたくて、その学校にも通っていたんですけど、事情ができて通えなくなってしまって……でも、やっぱり夢を諦めきれなくて、アンドレアさまにお願いしたんです」
「そうだったのですか……」
「ニコラス、トモキの腕はなかなかのものだぞ。私が腕を怪我をしていた時の応急処置も大したものだった」
「なんと――っ。それならば、私のもとで少しずつお勉強なさいますか? そしてゆくゆくは私の後継者となって頂けたら嬉しゅうございます」
「ニコラス先生が教えてくださるんですか!!! ぜひお願いしたいです!!!」
ニコラスの申し出にトモキは目を輝かせて喜んでいた。
騎士団で働かせるにはまだまだ整えなければいけないものがあるが、ニコラスに預けるのはまぁ許せる範囲だろう。
もちろんマイルズも一緒に行かせるが。
せっかくトモキがやる気になっているのだ。
それを見守ってやるのも伴侶の役目だろう。
私もトモキの伴侶として、少し寛大なところを見せなくてはな。
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