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手合わせをしたい

<sideクリス> 「ジョバンニ……お前、今日は訓練には行かない方がいいんじゃないか?」 「えっ……ですが、副団長として新入団員の訓練に参加しないわけには……」 「それをわかっていてどうしてそんなに……」 「申し訳ありません。私のせいです」 ジョバンニの隣でタツオミが項垂れているところを見ると、タツオミも反省しているようだ。 自分も同じようなことをトモキにしていたから、あまり強くも言えないが、さてどうしようか。 まだ訓練に行くまでに時間はあるが、今日のジョバンニが使い物にならなさそうなのはみてわかる。 とりあえず、トモキの護衛ということにして観覧席で休ませておくとするか。 トモキに私の勇姿を見せるために、そして、トモキの外出を阻むことがないように手加減したおかげで私の体力はここ数ヶ月で一番調子がいい。 新入団員たちが全員かかっていても正直負ける気がしない。 だから、ジョバンニがおらずとも私一人で十分だ。 「あ、あの……クリスさん」 タツオミが突然意を決した表情で私に声をかけてきた。 「どうした、タツオミ?」 「ジョバンニの代わりにはならないと思いますが、私を一緒に訓練に参加させていただけませんか?」 「タツオミを訓練に? いや、しかし……それは……」 気持ちはありがたいが、新入団員とはいえ騎士団の訓練に一般人を参加させるわけにはいかない。 「一応剣術は嗜んできましたので、多少なりとも自信はあります」 「ほう、そうなのか?」 思わぬ言葉に私は驚きを隠せない。 「はい。ですから、一度手合わせをしてからでも構いません。ご検討いただけないでしょうか?」 「ふむ、どうするか……」 タツオミの姿勢や体格をみて、何かしら武術に長けているとは思っていたが、剣術なら申し分ないな。 勝負は抜きにしても、一度タツオミの実力をみておくのもいいかもしれない。 それに、あちらの剣術がどういうものかも気になるところではある。 「あの、クリスさん……」 「んっ? どうした、トモキ」 「あの、マスター、いや、龍臣さんは剣道というか、剣術で優勝したこともあるんですよ!」 「優勝?」 「はい。国中から剣術に自信がある人が集まって戦うんですけど、それで一位になったんです」 「そうなのか??」 我が国にも国王の前で行われる御前試合には国中から猛者が集まる。 私も騎士団長に任命されてから3回ほど参加したことがあるが、あまりにも大差で勝ちすぎるからという理由で優勝者との模範試合のみの参加となったのだが、そんな話はいいか。 兎にも角にもタツオミが国中の猛者と戦って優勝したのなら、期待が持てるな。 「ならば、タツオミにも参加してもらうとするか」 「本当ですか!!」 「ああ、陛下も救世主であるタツオミが参加するというのなら反対はしないだろう。いや、かえって喜んでくださるだろう。それに騎士たちにもタツオミが救世主だと話をしたら士気も上がるだろうし、いいこと尽くしかもしれないな」 「ありがとうございます!」 「身体も少し動かしておいた方がいいだろう。先ほどタツオミが言っていたように訓練場に行く前に準備運動がてら手合わせをしておくか」 「はい! ぜひ」 「マイルズ、タツオミの着替えを頼む」 「承知しました。ではタツオミさま。こちらにどうぞ」 タツオミは嬉しそうにマイルズについて行った。 「トモキ、私も着替えてくる。ここでジョバンニと一緒にいられるか?」 「はい。待ってますね」 トモキに見送られ、私は自室へ向かった。 <sideジョバンニ> 昨夜の情事があまりにも激しすぎて、意識を失うまではなかったけれど正直訓練を受けるのは厳しい状態だった。 それでも今日は新入団員の訓練初日。 流石に副団長として休むわけにはいかない。 タツオミは今朝からずっと謝ってくれていたが、タツオミは謝る必要など何もない。 騎士であるにも関わらず私が弱すぎただけだ。 ここのところ事務仕事が多すぎて訓練をサボっていたせいだろう。 それでもなんとか自分を奮い立たせて団長の元にやってきたのだが、もちろんタツオミも一緒についてきてくれている。 このまま団長の許可さえ出れば私が参加するつもりだったけれど、団長は私を一目見たと同時に私の状態が良くないことに気づいたようだ。 それでも副団長として出る気だったのだが、タツオミが私の代わりに訓練に参加したいと言い出した。 あちらで剣術をやっていたという話は以前タツオミから聞いていた。 けれど、そんなことをさせるわけにはいかないと思っていたのに、私の体調が悪いばかりにタツオミに迷惑をかけてしまうことになるなんて申し訳なくて仕方がない。 団長は断ってくれるだろうかと思っていたのに、トモキさまの口添えでタツオミの実力を見ることになってしまった。 正直言って、タツオミがどれほどの実力なのか見たくて仕方がない。 けれどこれでもし団長に勝つようなことがあれば、団長は絶対にタツオミを騎士として入団させるかもしれない。 せっかく私の補佐として一緒にいてもらうことが決まっていたというのに……。 わかっている。これが私のわがままだということは。 それでも少し寂しくて仕方がないのだ。 「あの、ジョバンニさん……」 「はい。トモキさま、なんでございましょう?」 「どっちが勝つと思いますか?」 「えっ? そう、ですね……団長、でしょうか?」 「ふふっ。ジョバンニさんの顔は龍臣さんだって言ってますよ」 満面の笑みでそんなことを言われて顔が赤くなってしまう。 「顔に出てましたか?」 「はい。とっても。でも、それでいいんですよ。だって、自分の好きな人に勝って欲しいのは当たり前ですもんね」 トモキさまの無邪気な笑顔に癒される。 そうだ。 余計なことを考えずにただ応援しよう。 私はタツオミが大好きなのだから。

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