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タツオミの実力

<sideクリス> 「トモキ、待たせたか?」 「いいえ――わっ! クリスさん、すごくかっこいいです!!」 「えっ? あ、そうか?」 「はい。初めてクリスさんにあった時と同じ格好ですね」 そうだ。 あの時は騎士団の訓練の帰りだったな。 「覚えていてくれて嬉しいよ」 「ふふっ。当たり前ですよ。僕、クリスさんの残してくれたあのジャケットを抱きしめていたら、ここの世界に来られたんですから」 「ああ、そうか。そうだったな。あの私の勲章メダルがトモキをここに連れてきてくれたんだ」 「あれは結局一緒には持ってこられなかったですけど、無くして大丈夫だったんですか? あんなにいっぱいメダルがついていたのに……あれは全部アンドレアさまからいただいた大切なものだったんでしょう?」 「言っただろう? メダルなどこちらには腐るほど持っている。それにトモキ以上に大切なものなど私にはない」 「クリスさん……」 嬉しそうに私を見つめるトモキを抱き上げ、口づけを贈る。 唇を離すとトモキは恍惚とした表情で上着に触れる。 「トモキ……そんなにこの姿が好きか?」 「はい。初めてクリスさんのその姿見た時、かっこいいなって思ったのであの時の気持ちが甦ってます」 「そうか、なら騎士団は辞めないでおこう。トモキにいつまでもかっこいいと思われたいからな」 「わぁー、嬉しいです!」 心から喜んでくれるトモキを抱きしめていると、 「トモキさまにかっこいいと思われたいという不純な動機ですが、我が騎士団にとっては団長がずっといてくださることは朗報ですね」 ジョバンニにそう言われてしまったが、ジョバンニとしても喜んでくれているようだからよしとするか。 「すみません。支度に手間取ってお待たせしてしまいました」 少し経ってタツオミの声が聞こえた。 <sideジョバンニ> 「――っ!!!」 タツオミの声に振り向くと、そこにいたのは恐ろしく騎士姿が似合っているタツオミ。 かっこいいとはわかっていたけれど、こんなにも似合っているなんて!! あまりにもかっこよすぎて誰にも見せたくないと思ってしまうほどだ。 「わぁー! 龍臣さんもよく似合ってますね!」 「ほう、本当になかなか決まっているな」 「あ、ありがとうございます。初めての衣装で若干着慣れないのですがお褒めいただいて光栄です」 にこやかな笑顔を浮かべるタツオミの姿に胸がときめく。 もう言葉にできないほどドキドキが止まらない。 すると、そんな私の様子に気づいたのかタツオミが私のそばに駆け寄ってきた。 「ジョバンニ? どうかしましたか?」 「あ、いえ。なんでもないのです」 そう言いつつも、タツオミから目が離せない。 「ジョバンニ?」 「タツオミ、心配することはない。其方の騎士姿に心奪われているだけだ」 「――っ、団長!!」 「ははっ。本当のことだろう」 団長にいとも簡単に心を見抜かれて慌てて制するけれど、もう誤魔化しも効かない。 「ジョバンニ、本当ですか?」 「ええ。タツオミがあまりにも素敵で見惚れてました」 「――っ!! 嬉しいです」 「わっ!!」 タツオミは団長とトモキさまの前にも関わらず、私を抱きしめそのまま唇を重ねた。 「ん゛っんっ」 大きな咳払いの音にびっくりしてタツオミの唇が離れた。 「もうそろそろ手合わせしたいのだが……」 待ちきれない団長がそう声をかけてきた。 自分だってさっきまでトモキさまとイチャイチャしていたくせに。 そう思っても口にはできないが。 「失礼しました。あのお手合わせ、お願いします」 「ああ。じゃあ、あちらで始めようか」 ゆっくりと二人で庭に下りていく。 私とトモキさまは部屋からその様子を見守る。 「タツオミ、これを」 団長が手渡したのは真剣ではなく、訓練用の木剣。 「はい。すごくしっくりきますね」 手慣れたように木剣を握った瞬間、タツオミの周りの空気が一気に変わった。 タツオミからビリビリと感じる迫力に緊張が走る。 きっとすぐ近くにいる団長は私よりもずっと強く感じているだろう。 「ジョバンニ! 声かけを!」 「はい」 一瞬の静寂が訪れる。 「始めっ!!」 その声に先に動いたのはタツオミ。 団長はそれを難なく躱した。 そして、そのまま団長が攻め立てるが、タツオミもそれをうまく躱す。 ガンッ、ガンッと木剣がぶつかる音に興奮してしまう。 これまで団長にこんなにも攻め入る騎士がいただろうか。 なんと心地良い空間だろう。 これを私たちだけで見ているのがもったいないと思ってしまうくらい、素晴らしい試合が続く。 どちらが勝ってもおかしくない。 そう思うくらい迫力のある試合に、私もトモキさまも言葉も出せず、ただ自分の手を膝の上でぎゅっと握りしめながら見守るだけ。 そして最後の瞬間が訪れた。 ガンッ! 鈍い音がして、カランカランと木剣が少し離れた場所に落ちた。 手に持っていないのは……タツオミだ。 ああ、タツオミが負けたのか……。 けれど、とてつもなく清々しい。 こんなにも団長を追い詰めた人は今まで一人もいなかった。 「参りました」 悔しそうに頭を下げるタツオミの手を団長がとる。 「其方は素晴らしい騎士になるな」 騎士たちに向けたことのない満面の笑みでタツオミをみる団長の姿に、私はタツオミの騎士団入団が決定したことを悟った。

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