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第2話 十年越しの初デート(1)
自分が同性愛者であると自覚したのは高校生の頃。
同級生たちが異性に興味津々になっているなか、侑人はそういった感情を抱けずにいた。
最初は戸惑いもしたし、何かの間違いではないかと自問自答を繰り返したこともある。しかし、結局のところは受け入れるしかなかった。
「本城 先輩。お、俺……あなたのことが好きですっ」
侑人が初めて恋をしたのは、一学年上の先輩だった。ともに男子テニス部に所属し、ダブルスを組んでいた相手――本城輝彦 。
勇猛果敢でミスを恐れることのない攻撃型の本城と、慎重で粘り強さのある守備型の侑人。一見すると正反対の二人だが、不思議と相性がよかった。
攻撃の要として本城がプレッシャーをかければ、どんなにきつくたって侑人も好機を逃さない。互いに敬意を持っていくつもの勝利を手にしてきたし、練習中も休憩時間も二人はいつも一緒だった。
そうして過ごすうち、いつしか憧れが恋心へと変わっていったのだ。こんな感情、伝えるべきではない――頭ではわかっていても、胸の内に秘めた想いは抑えきれないほどに膨らんでいて、もはやどうしようもなかった。
「あの、先輩が卒業する前に伝えたくてっ。でも付き合ってほしいとかじゃ――」
放課後の校舎裏。二月という寒空の下、侑人は本城のことを呼び出していた。
突然の告白を受け、本城は大きく目を見開く。侑人が最後まで言い終わる前に、その表情が苦笑へと変わった。
「瀬名、お前からの好意は嬉しいよ。けど、期待には応えられない……ごめんな」
言って、申し訳なさそうに侑人の頭をぽんと叩く。
(ああ、どうせこんなことになるって覚悟してたのに……)
覚悟していたとはいえ、やはりショックだった。
たとえ玉砕するとしても、自分の気持ちを知ってほしい。ささやかな願いから告白したつもりだったが、そこは人間というべきか淡い期待もあったのだ。
本城の性格はよく知っている。誰にでも分け隔てなく優しく、想いを打ち明けたところで軽蔑することはないとわかっていた。きっと今だって、こちらを傷付けまいとしてくれているのだろう。
ただ、その純粋な優しさがときに辛かった。
いっそのこと突き放してくれた方がよかったのかもしれない。そしたら、きっぱりと諦めもつくというのに。
「すみません、変なこと言っちゃって」
侑人は必死になって笑顔を作ってみせる。すると、本城は「いや」と首を横に振った。
「俺のこと、好きになってくれてありがとな。卒業してもたまに連絡してくれよ」
そんな言葉とともに頭をわしわしと撫でられる。本城の手は大きくて温かく、なおさら侑人は辛くなった。
「っ、う……」
最後に一言二言やり取りを交わして、本城と別れたあと。遠ざかる背中を見つめながら、そこでようやく涙を流す。
試合に負けて悔し泣きすることはあっても、こんなふうにさめざめと泣くのは幼少期以来だった。
(胸が、痛い――)
侑人は一人その場にしゃがみ込むと、声を押し殺してひたすら泣いた。
が、ふと人の気配を感じて顔を上げる。続けざまに、ガサッという物音が聞こえた。
「あ、やべ」
そこにいたのは、シューズの色からして三年生と思われる男子生徒だった。ゴミの入ったビニール袋を手にしており、おそらくは校舎裏のゴミ捨て場に用があったのだろう。
気まずい空気が漂う中、彼はバツが悪そうに頭を掻く。
「悪い、さっきの聞いちまった。あいつ、俺のダチでさ……つい」
どうやら、本城とのやり取りを見られていたらしい。侑人がギョッとしているうちにも、相手は言葉を続けた。
「お前、アレだろ? 本城とダブルス組んでたっていう二年の瀬名。本城のヤツがよく話してたし、何度か見かけてたから覚えてる」
ゴミ捨て場にビニール袋を放ると、さりげなく侑人の隣に座り込んでくる。どうやら悪い男ではなさそうだが、いきなりの距離感に戸惑ってしまう。
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