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第2話 十年越しの初デート(2)

「あの」 「あー俺? 俺は高山。さっきも言ったけど、本城のダチで――」 「いや、そういうことじゃなくて。俺に何か用ですか」 「は? ねえけど?」 「………………」  高山と名乗った男は、きょとんとした顔で首を傾げていた。侑人はムッとしつつ無言で立ち上がる。 「おい、待てよ。泣いてるヤツ放っておけねえだろうがっ」  その場から去ろうとしたものの、すぐに腕を掴まれてしまった。  失恋の痛みでそれどころではないのに、なんということだろう。本城とのことを知られ、恥ずかしいやら情けないやらで泣きっ面に蜂状態だ。 「こういったときは、誰かに話した方が楽なんじゃないのか?」 「いいですよっ、放っといてください!」  振り払おうと乱暴に腕を振ったが、怯むどころかますます強く握ってくる。高山は真剣な表情でこちらを見下ろしていた。 「あーわかったわかった。ったく、仕方ねえな」  あっ、と思ったときにはもう遅い。腕を引き寄せられてバランスを崩したところを、正面から抱きしめられてしまった。  突然のことに頭が真っ白になる。ドクンッと心臓が大きく鳴ったあと、すぐに我に返って抵抗した。 「ちょ、何すんだよ!」 「ほら、よしよし」 「子供扱いすんなっ、ふざけてんのか!」  まるで子供をあやすように背中をぽんぽんと叩かれ、カッと頭に血が上る。  高山はというと、相変わらずこちらの体を抱きしめたままで、離そうとせず力を込めてくる始末だ。 「いいから落ち着け。泣き顔なんて他人に見せたかないだろ?」 「だからってなあっ」  侑人は顔を真っ赤に染めながら、必死に抵抗を続けた。が、いくら暴れても高山はビクともしなくて、次第に抵抗する気力が失せていく。  悔しくて腹立たしいというのに、どういったことだろう。高山の体温や鼓動を感じる余裕が出てくると、心地よさまで覚えるようになってしまった。  抵抗をやめた侑人の頭を、高山がそっと撫でてくる。本城とは違う慈しむような手つき。優しくされると余計に泣けてくるからやめてほしい――そう思う一方で、もっと甘えたいと思ってしまう自分がいた。 「少しは落ち着いたか?」  しばらくして高山が身を離す。侑人はこくりと頷いてから口を開いた。 「放っといてくれてよかったのに。さっきの聞いてたならわかるだろ? 俺、男が好きなんだよ」 「それが?」 「普通に気持ち悪いだろ。なのに、こんなことして……意識されたら嫌だとか思わねーのかよ?」 「勝手に決めつけんなよ。俺だって野郎とそういった関係になったことあるし、いちいち気にしねえわ」  あっさりと言い放たれた言葉に、侑人は面食らう。信じられない気持ちで、まじまじと相手の顔を見つめてしまった。 「本気で言ってんの」 「なんつーかノリでちょっとな。俺、女も男も両方イケたみたいでさ」  高山は平然と言ってのける。  つまりはバイセクシャルということだろう。まさか自分のほかにも、学内にそういった性的指向の人間がいたとは驚きだった。侑人の中で何とも言い難い感情が渦巻き始める。 「なんだそれ。――キスは? セックスは?」 「両方とも経験ある。ああ、でもさすがに抱かれるのは勘弁」 「じゃあ」と、そこで言葉を切って「俺相手にもできる?」  率直に尋ねると、高山は虚をつかれたように目を丸くした。 「は?」 「俺が『抱け』つったら、抱けるのか訊いてんの」 「お前、なにヤケになってんだよ」 「っ、だって」  侑人は思わず唇を噛む。  なにも自棄で言っているのではない。本城のことが頭をよぎり、また涙がこぼれ落ちた。

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