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第8話 突然のカミングアウト(6)

「もう俺が守ってやる必要はないわけか」  そこで一旦言葉を区切って、小さく息をつく。 「お前を連れ帰ってきたとき、あの男にも言われたよ。『俺、こいつを手放す気ないんで』だの、『絶対に泣かせない、って初めて会ったときから心に決めてて』だの――」 「えっ、ええ!?」 「でもってよ、『侑人のことは、俺の手で幸せにしてやりたい』とか言うんだぜ? 真顔で言うからクソほどビビったわ。聞いてるこっちが恥ずかしくなるっての」 「あ、はは……高山さん、結構キザなところあるから。俺でもたまに引くっつーか」 「んなこと言いながら、顔赤くすんなよなあ」 「っ!」  侑人はギクリとした。  本当は顔が熱くてたまらない。はたからしたら歯の浮くような台詞だが、高山の気持ちに嘘偽りがないことはわかっているし、嬉しくもなってしまう。 「……なんかムカつくな。昔の侑人は『兄ちゃん兄ちゃん』って、俺のあとばっかついてきたのに」 「いつの話してんだよ。相当昔だろ、それ」  まったく、ピュアな感情が台無しである。恭介がわざとらしくいじけてみせるので、思わず侑人も呆れ交じりに返した。  ただし言葉とは裏腹に、恭介の表情はどこか吹っ切れたように晴れやかだった。 「まあでも、それを聞いて男も女も関係ないんだと思ったよ。勝手にお前の幸せを決めつけるもんでもない、ってな」 「兄さん……」  恭介が侑人に向ける眼差しは、良くも悪くも昔と変わらない。  高山に対してあれやこれやと言っていたが、悪意のようなものではなく、弟である侑人のことを案じていただけなのだろう。  回り道はしたものの、そのような兄の存在がありがたく、また純粋に誇らしく思えた。 「あ、ありが――」 「可愛い弟のためだもんな! あいつのことは気に食わんが、俺の侑人が幸せならそれでいいっ!」 「………………」 「ありがとう」と口にしようとした矢先、恭介は拳を握ってそんなことを言ってのける。感動的なシーンから一転、侑人は脱力感に襲われるのを感じた。 (でも、兄さんらしいと言えばらしいか)  つい苦笑してしまったが、感謝の気持ちは依然抱いたままだった。  玄関先で恭介を見送ったあと、侑人はベランダにいる高山のもとへ足を運ぶ。  高山は背を向け、手すりに寄りかかりながら煙草を吸っていた。こちらが声をかけると、すぐに振り向いて柔らかく微笑んでくる。 「お疲れさん。丸く収まってよかったな」 「あー、もしかして聞こえてた?」  隣まで歩みを進めて、侑人も手すりにもたれかかる。  高山は煙草を咥えながら笑みを深め、いたずらっぽく言葉を返してきた。 「まさか、あそこまで言ってくれるとはな」 「そ、それ言ったら、あんたの方がよっぽどだろ。あんな恥ずかしい台詞、よく言えるよな」 「俺は誠意をもって、思ってることを口にしただけだ。……ま、お義兄さんには『侑人のこと傷つけたら、気絶するまでぶん殴る』って脅されたが」 「兄さん~っ!」  侑人は頭を抱える。その姿を見て、高山はおかしそうに笑っていた。 「安心しろよ、そんなことにはならないから」 「……本当に?」 「ああ。誓ってもいいぜ」  言って、頭の上に手を置いてくる。ぽんぽんと優しく撫でられたあと、そのまま引き寄せられて軽く唇が重なった。  毎度のことながら、甘ったるい高山の言動に胸が熱くなってしまう。侑人は気恥ずかしさにぼそっと呟いた。 「ヤニ臭くてマズ……」 「なんだよ、照れ隠しか?」 「不味いのは本当だっての」 「なら、これ以上はしない」 「……拒んだことないの知ってるくせに、なに言ってんだよ」  至近距離で言葉を交わし、小さく口元を綻ばせる。  今度はゆっくりと口づけられ、侑人は鼻にかかった声を漏らした。

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