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第8話 突然のカミングアウト(7)
「ん、っふ――」
ちゅ、ちゅっと啄むような口づけが繰り返されるうちに物足りなくなり、自ら歯列を割って舌を滑り込ませる。すると、すぐに高山の舌が絡みついてきて強く吸われた。
そのまま何度も角度を変えて貪られ、次第に頭がぼうっとしてくる。
(……キスだけで蕩けそう)
高山とのキスはいつだって刺激的だ。ヤニ臭さと、何とも言えぬケミカルな味。どこかピリピリと舌が痺れるような感覚――。
不味いと思いながらもやめられない。それどころか、今ではすっかりクセになっている気さえする。
もっと味わいたくて積極的に舌を絡めれば、それに応えるように深く口づけられた。舌裏や上顎をねっとりと舐められ、侑人はたまらずに高山のシャツを掴む。
「ん……は、っ」
「侑人」
キスの合間に名前を呼ばれて、背筋がぞくりとした。熱い吐息混じりの声色に腰が砕けそうになってしまう。
気持ちいい。もっと欲しい。そんな欲求に支配されていくのがわかる。
しかし、誰に見られているかもわからない状況で、このまま続けるわけにもいかないだろう。名残惜しさを覚えながらも互いに唇を離し、少しの間ぼんやりと見つめ合う。
先に動いたのは高山だった。頭を掻きつつ手すりに向かいなおすと、気を落ち着かせるかのように紫煙をくゆらせる。
その横顔は、なんとなくいつもの余裕がないように思えた。そっと口から煙草を離し、静かに煙を吐き出したところで口を開く。
「なあ、侑人」
「うん?」
「俺たち、本当に結婚するか?」
ぽつり、とさりげないことのように告げられた言葉。
高山の一言に侑人は息を呑んだ。心臓が大きく跳ね上がり、鼓動が速まるのを感じる。
「高山、さん……?」
二度、三度とプロポーズまがいの言葉を告げられてきたけれど、雰囲気がこれまでとは明らかに違う。
いつだってキザな台詞を平然と言ってのけた高山が、今回ばかりはこちらを見向きもしない。切れ長の目を伏せて厳かに言葉を紡ぎ出す。
「誰よりも愛してる。一生かけてお前のこと幸せにするから――どうか、俺を信じてずっと傍にいてほしい」
熱烈な愛の告白に圧倒され、侑人は息をするのも忘れて立ち尽くした。全身の血液が沸騰するかのような錯覚に陥る。
世の恋人たちは、一体どのように愛を交わしているのだろう。恋愛経験の乏しい侑人にとっては難題に思えてならないし、何もかもが手探りだ。
けれど、この胸にある確かな感情は――ずっと一つのことを訴えかけていた。
「バカ、もう離れられるわけないだろ。……俺をこんなふうにした責任、ちゃんと取ってよ」
侑人はそう告げながら、高山の肩口に額を押し付ける。
嬉しさと恥ずかしさと、いろいろな感情が入り混じって、どんな顔をすればいいのかわからない。だから顔を合わせることもなく、ただ寄り添って不器用に言葉を返した。
高山はそんな侑人の頭に手を回し、愛おしげに撫でてくる。
「男に二言はねえよ」
その声に顔を上げれば、やっと二人の視線が交わった。高山の眼差しはどこまでも優しく穏やかで、それでいて強い意志を秘めていた。
「っ、あは……やっぱ高山さん、ちょっとクサすぎ」
「うるせえな。お前だって満更でもないくせに」
照れ隠し半分で茶化せば、高山も同じように返してくる。それから、どちらからともなく笑みがこぼれ、気がつけばクスクスと笑い合っていた。
「侑人がその気なら、とりあえず式でも挙げるか」
「えー、本気かよ? 普通はその前に同棲するもんだろ」
「それもそうか。じゃあ、同棲してしばらく経ったらだな」
カラっとした口ぶりについ苦笑してしまう。どこまで本気なのかわからない話をしながらも、今この瞬間が愛おしくてたまらなくなる。
侑人はしっかりと頷いたのちに、高山と手を重ねた。
「……ふつつかものですが、よろしくお願いします」
「こちらこそ」
そんな言葉を交して、再び寄り添い合い――そして、ともに歩む未来に思いを馳せる。夢に描いてきた光景は、もう手を伸ばせば届くところにあった。
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